第百三十一話 放課後の行動 宝探し
狭間の日常のような感じで放課後の行動シリーズが始まります。ただし、今回は周、悠聖、悠人の三人だけです。
僕は林の中を駆けていた。もちろん、何かあった時のために簡易型パワードスーツを身につけている。
簡易型パワードスーツはダークエルフに乗る時に着るパワードスーツと違って機動力はそこまで高くはない。
あくまで簡易型だかららしいけど、原理はよくわかっていない。
僕はその簡易型パワードスーツを駆って林の中を駆ける。そして、林が開けた。
「遅いよ。20秒の遅刻」
「リリーナ、悠人は急いで来たんだから」
「鈴は甘い。甘すぎるよ。甘椿みたいに甘いよ」
「「甘椿?」」
僕と鈴の声が重なる。そんな名前は聞いたことがないからだ。
「魔界にある料理の名前なんだけど、すごく甘いの。チョコレートよりも甘くて」
「そんな料理があるんだ。アル・アジフさんに尋ねたら何か教えてくれるかな?」
アル・アジフさんは本当に物知りだ。でも、尋ねたとしても、「まずは、自分で調べてみることじゃ」と言われそうだな。
もしくは、自ら料理を披露するか。最近は都さんに料理を教えてもらっているし。
「悠人が約束の時間に遅れたことは確かなんだから、ちゃんと罰は与えないといけないよ」
「えっ? 痛いのはやだよ」
僕はすかさず後ろに下がった。だけど、それが杞憂だとすぐにわかる。
だって、リリーナと鈴が目を合わせてクスッと笑い合ったから。
「悠人は本当に全部信じるね。あっ、悪いってことじゃないよ。そういうところは特に好きだな」
「むっ、鈴がどさくさに紛れて告白してる。私だって悠人のことが好きなんだからね。ところで、今日の探検場所なんだけど」
「待って。浩平さんかリースは?」
アル・アジフさんから何回も念押しされているが、宝探しに出かける時は、必ず浩平さんかリースさんを連れて行くように言われている。
それは、僕を心配してくれているのと、リリーナと鈴の安全を確保するためだ。
だから、今日みたいな日はおかしい。
「今日は浩平が長距離から監視してくれるらしいよ。リースは用事があるって言ってたから」
リリーナは浩平さんのことを呼び捨てにする。どうしてかわからないけど呼び捨てする度にイラつくのはどうしてだろう。
「そうなんだ。だから、僕に簡易型パワードスーツを」
「それもあるけどね。鈴と相談して、今日はあそこに向かおうと」
そう言ってリリーナが指差したのは近くにある山だった。あそこにはリリーナが跳んで見つけたものがある。
奇妙な洞窟だ。
場所が崖の上で、そこに辿り着くには崖を登るか降りるかしなければいけないらしい。しかも、上手く木が隠しているからリリーナが見つけたのは完全に偶然。
「多分、何かあると思うから。私は悠人やリリーナみたいに強くなくて、あそこまで辿り着けないし」
「二人が下に待機で僕が様子見だね。わかったよ。今なら少しの間だけ探検出来そうだしね」
「じゃ、行こっか」
僕達は歩き出した。今日、音楽の授業で習った歌を歌いながら。
崖の上にある洞窟。それは、完全にカモフラージュされていたものだった。
洞窟の入口近くにいくつもの木々が倒れているところを見ると、これらが倒れていなかったら見えなかったと思う。
これは偶然だろうか。それとも、
「気にしていても始まらないよね。さて」
僕はしっかり簡易型パワードスーツのヘルメットを被った。いつものパワードスーツにはないものだけど、これをつけていたら気密性は高くなるし、何より周辺の空気の構成がすぐにわかる。
危険性を出来るだけ減らすものだ。ただ、安全第一と書かれた文字だけは勘弁して欲しい。
僕はヘルメットに備え付けられているライトをつけた。バイザー越しに洞窟が照らされる。
一応、簡易銃を取り出して、僕は歩き出した。
ただの洞窟だと思うけど、人が来るような場所にないものだから何かが隠れていてもおかしくない。だから、僕は慎重に歩く。
パワードスーツがあるから不意の攻撃には耐えられると思うけど、僕が着るものはそれほど耐久が高くない。だから、警戒しておかないと。
洞窟の中は普通だった。変なところは一つもない。それに、それほど奥に続いていない。あっという間に最奥に辿り着いた。
「行き止まりかな」
僕は周囲を照らして何かないか探す。どうやら杞憂だったみたいだ。それならそれでいいけど。
僕は踵を返す。何もないとわかればここにいる理由はない。
僕はそう思いながら足を踏み出して、何かを踏んだ。スイッチのような何かを。
僕は嫌な予感がして周囲を見渡す。何も変化はない。でも、この足をどけたらどうなるか。
僕は小さくため息をついた。そして、すぐさま簡易型パワードスーツの出力を最大まで上げる。最大まで上げて、全力で地面を蹴った。
『侵入者を発見。セキュリティシステム起動』
「ちょっ、いきなり何なの!?」
僕は力の限り全力で出口を目指す。だが、出口に見えるのは上から閉まってくる扉。
僕は簡易銃を直して、保存されている最大威力の武器を取り出した。その名も杭打ち機。
整備の人はパイルバンカーって言っているけど、僕からすればあまりかっこよくないので普通に杭打ち機と呼ぶ。
杭打ち機を簡易型パワードスーツの右腕の装着して腰を捻った。
「貫け!」
そのまま勢いよく杭打ち機を叩きつける。叩きつけると同時に簡易型パワードスーツのエネルギーの20%を消費して杭打ち機が杭を一気に打ち出した。
閉まりかけた扉に大きくひびを入れ、もう一度杭を放つ。すると、扉が粉々に砕けて出口が見えた。
僕はすかさず外に出る。外に出たまま一気に走ってがけから滑り降りた。
驚く二人の顔を見ながら僕は地面に着地してそのまま腰を落とす。
「悠人、何かあったの?」
鈴がすぐに駆け寄ってくるが、リリーナは崖の上を警戒したように睨みつけている。その手にあるのはリリーナの持つ鎌。
僕は小さく息を吐いた。
「トラップに引っかかってね。死ぬかと思った」
「トラップ? あっ、エネルギーが80%減少している」
鈴が簡易型パワードスーツの残量エネルギーを確認する。話によれば簡単なメンテナンスなら鈴でもできるらしい。
「よかった。悠人が無事で」
「ごめん。心配掛けた」
「いいよ。リリーナ、今はここから離れよ。悠人も簡易型パワードスーツの残量エネルギーが少ないし」
すると、リリーナは険しそうな表情になった。そして、鎌を握り締める。
「ごめん。何か胸騒ぎがする。今、ここから離れると後悔するような気がして」
「後悔? でも」
「行こう、鈴。一応、リースに連絡を」
「しなくていい」
その言葉に僕達は飛び上がって驚いていた。そこには呆れた表情のリースさんと浩平さんの姿がある。二人とも空を飛んでいた。
「あの洞窟は胡散臭いからな。まあ、俺達と一緒ならアル・アジフも許してくれるだろ。というか、俺は全力であそこに行きたいんだが」
「子供」
リースさんがぼそっと楽しそうに呟いた。多分、リースも行きたいと思っていたんだろうな。そうだ。今のうちにバッテリーを代えておこう。
「いいだろ別に。俺だって今は野山を駆け回りたい気分なんだ。宝探しなんて心躍るぜ」
「悠人達の宝探し」
「わかってるって。俺はそれに便乗させてもらっているだけだ。悠人、今から行くか? それとも、代えのバッテリーを持ってきてもらってから行くか?」
僕は二人が話している間にバッテリーを代えている。だから、今すぐに行ける。
「僕は大丈夫。だから、みんなで行こう」
「そうだね。あっ、鈴は私か悠人かにちゃんとついていること。危険だと判断したらすぐに戻るからね」
「うん。足手まといにならないように頑張るから」
僕は崖の上を見上げた。あの洞窟には何かある。もしかしたら、今まで手がかりが全くなかった宝探しについてかもしれない。
何があるかわからないけど、僕には何かあるという奇妙な思いがあった。どうしてかわからない。でも、僕はそれを信じよう。今だけは。