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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第一章 狭間の鬼
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第十二話 狭間市 入り口

駅に降り立つとそこには人の姿は反対側ホームにしかなかった。まあ、当たり前だが。


「狭間市ってくらいだから都会をイメージしてたんだけどよ、ぶっちゃけ田舎と変わらないな」


「で、浩平の出身地はどこなんだ?」


オレは軽く呆れながら溜息をついた。孝治から資料はいってないのか? 狭間市の人口は大体五万人だが、そのほとんどが集合型の都市内部にいる。そのため、駅周辺の風景と都市の風景はかなり違う。


「淡路村(人口四千人)」


「田舎と一緒にするな」


孝治も呆れたように話す。その気持ちはよくわかる。一番知っているのは孝治だろうけど。


「確か、狭間市は集合型の都市だったよな。学園都市のような大規模じゃないけど、一定地区に住宅から病院まで一つにしたのだっけ? オレはそう記憶しているが?」


「ああ。集合型の都市は珍しいからな。狭間市の場合は駅付近には何もないというさらなる珍しさがある。ただ、街に入れば立派な施設が多い。まあ、理由はあるけどな」


「理由?」


悠聖が首を傾げる。まあ、この理由はちょっと深いところを調べないと出て来ない。ちなみに、配布していた資料にも載っていない。


「狭間市は実験なんだよ。国公認の。時々現れる魔物に対して被害を少なくするために三十年計画で実験を行っている場所」


「初耳だが?」


「オレだって昨日初めて知った。日本政府も他の国も魔物の被害に悩まされているからな。まあ、学園都市も同じ理由で作られたけど」


東京特区学園都市。


世界でも最大規模の面積を誇り、京浜工業地帯も範囲に含むため普通の学生から専門職の学生まで様々な学生がたくさんいる。


さらには学校の数も全国区より多く、技術も最先端が豊富に使用されており、学園都市に来たがる学生は後を絶たない。


「学園都市は『GF』がどこまで動けるか、という実験ではなかったか?」


「孝治の言うことは少し違うぜ。周隊長から聞いた話だと、学生『GF』がどこまで動けるか、じゃなかったか?」


「ちなみにどっちも正解な」


学園都市にはたくさんの学生『GF』がいる。世界でも珍しい地域部隊の大半が学生『GF』という場所だ。おかげで、本来の区切りである地域部隊と学生『GF』の区別が存在しない。


「学園都市か。一度行ってみたいんだよな。今回の任務終わったら推薦くんね?」


「ああ、浩平は知らないんだな。オレ達、第76移動隊のホームグラウンドは東京特区学園都市だ」


「マ・ジ・で! だったら、このまま俺様が活躍したら学園都市行けんの? ひゃっほう! 青春を謳歌するぜ!」


浩平のテンションが高いことにはひくが、青春を謳歌って、お前はまだオレ達ど同年代なのに悲しくならないか?


あまりのテンションに全員がひいているがオレは小さく溜息をついて話しかけた。


「お前は青春を謳歌していないのか?」


「当たり前だろ。村の中学生以上は初体験済ませたというのにオレだけまだ済ませていないんだぜ」


初体験を済ませたってなんのことだ?


「何が?」


オレは意味がわからず浩平に尋ねた瞬間、浩平がキョトンとした顔になった。そして、孝治を見る。


「我が同士よ。まさか」


「周は純粋だ」


こいつらの会話が意味わからないけれど、まあ、いいか。


「そろそろ駅を出るぞ。明らかに変な目で見られてる」


「周隊長、それは多分オレ達の年齢からだと思う」


悠聖が軽く呆れ場がら周囲を見渡している。周囲からあるのは好奇の視線。確かに、この面々じゃ仕方ないよな。どう見ても子供だし。


「それもそうか」


オレが小さく笑いながら駅の改札から出た瞬間、高校生らしい集団が一人の中学生の少女を囲んでいた。


オレは目を疑う。目を疑ってポケットに手をつっ込んでいた。


「孝治、今何時だ?」


「俺の記憶が間違いでなければ朝の6時2分」


孝治はポケットから時計を取り出しながら答える。おそらく、オレと同じことを思ったのだろう。


「だよな。で、そんな時間帯から見るからに不良そうな高校生っぽい奴らが中学生の女の子を囲んでいるなんてありえるか?」


ちなみに、オレの中だとありえない。不良の活動時間帯は夜中のはずだが、こんなに朝早くからなんてオレの常識に当てはまらない。


「驚くことはそこかよ」


悠聖が呆れたような声を出すが、オレには聞こえていない。。


「ありえない。だが、周よ。よく中学生だとわかったな。あの女子は高校生と間違えても」


「服装」


あの服装はオレ達の通う中学校の女子の制服だ。どうして春休みである今に着ているかわからないが、中学生であることには変わりはない。


「ほう。あれが」


何故か感心したように孝治が言う。その言葉にオレ達は孝治から一歩離れた。


孝治の額に汗が浮かんでいるのは間違いではないだろう。


「孝治、お前、周隊長もひくような趣味があるんだな」


「趣味ではない。性癖だ」


開き直りやがった。だけど、額には大粒の汗を流している。多分、孝治の中では自分へのフォローのつもりだろうが、さらに悪化しているとしか思えないけど。


まさか、こんなところで、


「ねえねえ、何してんの?」


いつの間にか浩平が向こうの集団に近づいて話しかけていた。あの空気の中で動けるなんて浩平は大物か空気が読めない男か、それとも、オレ達の同じような人物か。


「あん? ガキがなんの用だ?」


浩平がなぜこの行動を起こしたかはわからないけど、おそらく同類だろう。オレ達と同じ信念を持つ。


「面白そうなことをしているからさ。女の子を囲んで」


「お前も参加するか? 今からこいつを私刑リンチすることを」


「一人に対して八人?」


浩平が軽くこぶしを握り締める。それは高校生からは見えないけど、オレ達からはばっちり見えていた。


「こいつは嫌われものだからな。私刑にしたところで感謝こそすれ嫌われは、ごばっ」


話している最中の不良の顔面に浩平の見事な回し蹴りが直撃していた。案外接近戦も鍛えているみたいだ。


浩平は出会ってからゆるい性格を見せているが、その信念は本物ということか。まあ、それなら一緒に任務はやりやすい。


「女の子は大事にしなけりゃダメだろ?」


「ひ、英雄! よく、ぐほっ」


「加勢するぜ」


そこに悠聖が飛び込んだ。悠聖も大分我慢していたようだが限界だったようだ。ちなみにオレと孝治は動いていない。オレ達も動けば確実に処刑になる。


「てめえら。こんなことをしてタダで済むと思って」


「思ってねえよ」


浩平が悠聖と背中を合わせる。


「でもな、俺はお前らのやり方が気にくわない。女の子を私刑だ? いと高く気高き至高の存在たる女の子になんて言い草だ! 女の子は優しく扱えとは言わないけどよ、乱暴に扱っていいわけがない!」


オレも孝治も背中を合わせている悠聖も浩平の言葉に頷いている。


「乱暴にしていいのはベッドの上だけ。それこそジャスティス! それ以外は俺様が認めないって、悠聖? 何で離れるの?」


いつの間にやら悠聖がオレ達の横に戻っている。凄い早さだ。軽く一歩後ろに下がったオレですら見えなかった。


ただ、気持ちは大いにわかる。


「オレは浩平と一緒に戦うくらいならお前と敵対する」


「ちょwww」


「女の子は如何なる時も大切に扱う。だが、壊れ物を触る感覚じゃない。例えベッドの上だろうが愛を持って扱う。それこそジャスティス!」


なんか今日は意外な性格が見えてきたよな。こいつらが変態になっていく。


「ならば、愛があれば乱暴はいいのか?」


孝治の一言で悠聖の額に汗が流れ始めた。確かにそうなるよな。地味に矛盾する。


「えっとー、えっとー、周にパス」


「何気に酷いな。そんなどうでもいい話は止めてくれ。で、あんたらは何をしているんだ?」


オレは軽く肩をすくめながら尋ねた。もちろん、少女を取り囲む奴らに対して。


奴らの顔色が変わる。多分、今まで完全に存在を無視されていたと思われているのだろう。実際に部妙な漫才をしていたような気分だし。


「ガキ共、無視してたんじゃねえよ。ガキは大人しく家の中で」


「オレが尋ねているのは何をしていれかだ。まあ、先に手を出した馬鹿を擁護する気にはならないが、恥ずかしくないのか?」


「恥ずかしい? はっ、こいつを私刑にするのはこの狭間市じゃ正しいの行為。俺達は正義の味方、ぼげらっ」


オレはそいつの股関に落ちていた石を蹴り飛ばしていた。その場にいた全員が少し気まずい気持ちになる。


頭を狙うつもりが蹴りミスった。気を取り直して。


「私刑をすることが正しい? 正義の味方? そんなの正義ですらない。誰かを悲しませる奴に、正義を語る資格なんてない! お前らのやっていることはただの暴力だ!」


「ガキの分際で!」


オレの言葉にキレたのか、一人が殴りかかってくる。動きはかなり滑らかだ。多分、武術の経験がある。でも、オレはそいつを片手で後方に投げ飛ばしていた。


孝治は体を横にずらしてぶつかることを回避する。


「警告だ。これ以上するなら、オレは容赦しない。どうする?」


ある意味相手を下に見下す言葉。だからこそ効果はある。


「ふざけんな!」


向かってくる残りの面々。


オレは地面を蹴った。


勢いを乗せたまま一番前の奴に肘を鳩尾に叩き込み吹き飛ばす。それだけで後ろにいた奴らも巻き込んだ。残るは二人。


迫り来る拳を簡単に避けて足を払って片手で後ろに投げ飛ばし、もう一人を甲で殴り飛ばす。


「ひゅー、圧倒的だね~」


浩平が予想通りとでも言いたいように満足そうな顔で口笛を吹く。


オレは小さく溜息をついた。


「これくらい、元の正規部隊なら普通だ。それより、大丈夫か?」


オレは少女に話しかけた。少女は俯いたまま何も答えない。


何かされたのか?


「大丈夫か?」


「余計なことをしないで」


顔を上げた少女は泣いていた。泣いて、そう言ってきた。


その言葉にオレは驚いて話そうとしていたことを忘れてしまう。


「私は、あのまま私刑にあいたかったのに、どうして止めるのよ」


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