第百二十三話 復興へ
オレがレヴァンティンを構える。機能組み込んだばかりのプログラムを起動させる。
「レヴァンティン、モードⅤ」
すると、レヴァンティンの形が変わった。剣から杖へ。砲撃杖ではなく単なる杖だ。
それを構えながら魔術を作用させる。物質を浮遊させてその目的の個所に塗りつける。これで損傷の小さな個所は大丈夫だ。
大きな損傷の個所は悠人達『ES』のフュリアスが直してくれている。過激派の面々が来てから一気に復旧が早くなった。
過激派の面々には昔戦ったことのある人もいたけど、そこまで好戦的な人は多くはなかった。まあ、腕試しと言われて模擬戦はしたけど。
ブラストドライブの弊害は完全に抜けたから今では全力で復興に力を入れている。
「よーす。頑張ってんな」
オレは小さくため息をつきながら和樹の方を振り返った。
「毎日来るよな。今日は俊輔もか」
ちょうど学校が終わった当たりの時間だからか和樹が毎日オレの様子を見に来る。すでに学校は始まっているが、復興がもうすぐ終わるのでオレは学校をサボって修復の手伝いをしているのだ。
オレはレヴァンティンを杖から剣に戻す。
「で、今日は何だ? いつものプリントなら委員長が持ってくるだろ」
「そうなんだけどよ、もう、あの事件から一週間。もう、修復作業が終了するからよ、お前の様子を見に来た」
「ふむ、ほとんど元の町に戻ったということか」
俊輔が周囲を見渡しながら言う。それにオレは頷いた。
損傷した個所はほとんど直っている。大破した建物がなかったことが幸いだったのか、とてもスムーズに仕事が終わった。明日には終わるだろう。
「たった一週間でここまでやるとは。さすが、世界の勢力が集まったというわけか」
『GF』に『ES』。そして、魔界。それらが集まって一気に復興支援を行ったからか予想をはるかに超える速度でここまでやってきた。実際に、オレの推測では後二週間かかると思っていたけど。
確実にフュリアスの影響だろうな。アル・アジフも過激派幹部もデータがとれて一石二鳥だと言っていたし。
「オレも驚いているさ。まあ、みんなには感謝している」
「気にすんなって。それに、それはこっちのセリフだ。お前らがいなければこの街がもっと大変なことになっていたのはわかる。お前らがいたからここまでで済んだんだ。そうだ、一応、学校内では精霊召喚符は見つかっていないぜ」
学校内での精霊召喚符の捜索をしてもらっている。実際にこの狭間市で見つかった精霊召喚符は悠聖のクラスメイトしかいない。だから、警戒している。これ以上、犠牲者を出さないために。
人間も、精霊も。
「そうか。助かるな。オレがいないのにいろいろ手伝ってもらって」
「気にすんな、ってこれじゃループか。まあ、精霊召喚符の話はかなりネット上で有名だからな。個人デバイス持ちかネット環境持ちの人なら確実に知ってる。簡単に強くなる方法ってな。危険性は度外視で」
「そうなのか。まあ、人は信じたくないものは信じないからな。オレからすれば、そんな上手い話はないけどな」
そういう気持ちはわかる。実際に凶悪犯が出てきた時の護身用として魔術の訓練をする人たちもいる。だけど、魔術が人を殺すことのできるものであることを覚えておかないけない。それを知らなかったという理由で何人もの人が毎年死んでいる。
非殺傷の魔術が使えるのは戦闘用に作られたデバイスくらいだ。
「強くなりたいのはわかる。でも、その強さは力を知ることを知らなければならない。知らなかったら、待っているのは身の破滅だ」
「よく昔にある話だな。力を追い求めるあまり身の破滅をする。人は過去から学ばなければいけない」
「お前は過去から何も学ばないけどな。でもよ、過去から学ぶって大変だぜ」
「まあな」
オレはその言葉に苦笑した。そのことはよくわかっている。過去に何度それを思ったことか。
「過去から全部を学ぶ必要はないさ。学ぶべきことは数少ない。それよりも、今の自分がどれだけ考えていられるか。まあ、過去というより今をどれだけ一生懸命に考えて生きているか。それが一番大事になるな」
「お前が言うと重い言葉だよな。そうだ、周はいつ学校に来るんだ? もうすぐ終わりだろ」
「明日、いや、明日は日曜だから明後日だな。明後日に行く。後は『ES』に引き継いでも大丈夫だろ。それに、新しい警備体制を考えないといけないし」
こいつらには精霊召喚符や歌姫と関係する敵と戦ったことは伏せている。話せば混乱することは確実だからだ。だから、話すわけにはいかない。
ただ、『GF』、『ES』に魔界と政府には伝えてあるけれど。
「新しい警備体制? どうしてだ?」
「和樹、お前は周の苦悩がわかっていないな」
俊輔は和樹を鼻で笑った。鼻で笑って偉そうに胸を張る。
「小学校に魔界の姫であるリリーナ・エルベルムがいる。それに、あの結城財閥の御令嬢もいる」
結城財閥の御令嬢というのはアル・アジフを尋ねに来た女の子だ。最初会った時はかなり驚いたけど、この狭間市に無理やり引っ越ししてきたという形になった。そのため、悠人が通っている小学校に転校もしちゃっている。
そのクラスにリリーナも入ったのだからかなり大変だ。
小学校には学生『GF』は皆無で、よっぽど才能がなければ入れない。推薦をもらったりすれば別の話だけど。実際に悠人達が通っている狭間市立狭間小学校にいる学生『GF』は七葉一人だけ。運が良かったというべきか。
一人でもいればかなり安心できるけど。リリーナの方が強いが。
「結城財閥って、日本で一番お金持ちで有名な?」
「ああ。『ES』穏健派に出資しているという噂すらあるあの結城財閥だ。ただ、宝探しという言葉を聞いているが。そこのところはどうなんだ?」
「あー、あれね。うん、事実。結城家で見つかった宝の地図を探しに来たらしい。まあ、結城財閥の当主に話を聞いたけど、内向きな令嬢を部屋から出すために話をしたらはまったらしい。一応、浩平とリースと一緒にいることを条件に宝探しをさせている」
音沙汰は全くないけど。それに、令嬢が内向きな性格だったなんて思えない。すごく明るいしはきはきしているし、悠人の取り合いをリリーナとしているし。このことは言わないけど。
オレは小さくため息をついた。さらに一人増えたメンバーを考えてくると少し嫌になってくる。
悠聖から聞いた話では、記憶喪失の精霊。その時点で意味がわからない。後、精霊が使うはずの魔力通信が使えず、精霊特有の会話の仕方である魔力を震わせてオレ達に言葉を届かせる方法も知らないらしい。
言うならただの一般人。悠人とアルネウラにとても懐いているから問題はないけど。
「お前も苦労してるんだな。そうだ。お前って今日の春祭りに来るのか? 琴美様が休み時間に教室に尋ねに来たぞ」
「そう言えば今日か」
あの日から一週間。今日が、春祭りの日だ。最近忙しかったから考える暇がなかった。
「そうだな。行くよ。あの場所によってから」
オレはそう言って立ち上がった。立ち上がって空を見上げる。
「変わらない日常があればいいのにな」
一応、本文の補足を。
魔術はデバイスによって非殺傷にできると書いていますが、デバイスによる強化によって簡単に人殺しが出来るまで強化することが可能なだけで、デバイス無しでは基本的に殺傷力は低いものです。