第百二十二話 宝の地図
精神感応を最大まで接続した状態で一気にアイゼンを動かす。なめらかに機体を動かすように出力を調整しながら周囲に被害を出さないように動きを足のペダルで調節する。素早く機体を動かし、周囲にある瓦礫を抱えてトラックに乗せる。
魔力燃料の出力から考えてこれが限界かな。
僕は小さく息を吐いてアイゼンの動きを止めた。周囲はかなり片付いているから少し一服が出来る。
「感応解除。出力減少」
僕は出力を落として小さく息を吐いた。
ここら辺の瓦礫の撤去は終わったから、後は別の場所の手伝いだ。でも、少しくらいは休んでもいいよね。これはサボりじゃない。うん、サボりじゃない。
僕はコクピットを開けて外の空気を中に入れる。
コクピット内部は完全に隔離されている。それは、空気中の魔力粒子を通してコクピット内で魔量粒子が爆発するのを防ぐためだ。防がなければ確実に死ぬからね。
そんな事態にはまずならないと思うけど。まあ、ここにはどう考えても僕の操るフュリアス以上の動きをする人たちがいるし。白百合音姫さんとか特にそうだろう。
「よし。じゃ、次の場所に」
「すみません」
僕はその声に振り向いた。すると、道路の真ん中に女の子が立っている。僕と同じくらいの女の子だ。背中にリュックを背負ってこっちを見ている。さらさらした黒髪で、日本人だよね? というか、ここ日本だから日本人か。日本語だったし。
「はい」
「あの、ここにアル・アジフさんはいますか?」
「アル・アジフさん? いるよ。今はどこを走りまわっているかわからないけど、どこかに入る。連絡入れようか?」
「お願いします。結城の人が来たと言えばアル・アジフさんには伝わると思うので」
結城。その言葉に僕は思いつくことがあった。
結城財閥。
『ES』のフュリアス開発を援助してくれている一族。実際に、結城家の当主である結城修三とは会ったことがある。アル・アジフさんの名前を言うということは結城財閥の関係者かな。
「わかった」
僕はパワードスーツについている通信機器でアル・アジフさんとの回線を開く。回線はすぐに通じた。
『なにかあったか?』
心配するようなアル・アジフさんの声。僕は首を横に振った。
「アル・アジフさんにお客さんみたい。結城の人と言えば伝わると言っていたけど」
『結城財閥の関係者が来たのじゃな。了解じゃ。今すぐそっちに向かうからそなたはその者の相手を頼む』
「わかった」
僕は通信を切ってパワードスーツで地面まで降りる。第一世代型フュリアスの弱点が地面への降り方が少ないというところかな。
この降り方は僕くらいしかしない。
「アル・アジフさんはすぐに来るって」
「ありがとうございます。それにしても」
女の子はアイゼンを見上げた。
「IF計画の最初に作られたIF1-05『アイゼン』。災害救助用に設計されて、今回の件で初始動。どうですか?」
「反応は悪くないよ。でも、やっぱり駆動系が古いからか動きは鈍いね。やっぱり、ガベージ社の駆動系を使わないと」
「IF計画ではIF2-03以降に組み込まれたやつですよね。最新型のIF3D-01ではその最新駆動系が組み込まれているとか」
「どうして君がダークエルフのことを知っているの?」
それを言ってから僕はしまったと思うのがわかった。ダークエルフの話は秘密にしておくようにアル・アジフさんに言わないように言われていいたのを思い出したから。
結城家の関係者だとしても言わない方がよかったと思った。
すると、女の子はクスッと笑った。
「大丈夫ですよ。ダークエルフのことは私達が総力を結集して作り出されたものですから。私も関係しています。実際に、ダークエルフのAIは私の思考をもとに作られたんですよ」
「そうなの!?」
僕は思わず大きな声を出していた。確かに、ダークエルフの思考AIは他のものと比べて高性能だったけど、まさか、実際の人を使っているなんて。
女の子は嬉しそうに笑った。
「ようやく出会えた。ダークエルフのマスターに」
「えっ?」
女の子が僕の手を掴む。そして、満面の笑みで、
「私に手伝ってください」
「悠人ー! 飲みも」
リリーナの声と共に何かが地面に落ちる音が響いた。そして、僕達はそっちを向く。すると、そこにはボトルを落としたリリーナの姿があった。どうしてかわからないけど、背中にリリーナの武器である鎌が見えるような気がする。
気がする出会って欲しい。
「悠人、そこの女は誰かな?」
ふつふつと湧き上がるリリーナの背中から見える異常なオーラ。それを見ていた僕と女の子は思わずすくみあがる。
どうして、リリーナはそんなにも怒っているのだろうか。
「リリーナがいない間に悠人を盗ろうだなんていい度胸だね」
「えっと、あの方は?」
「驚いているけど妙に冷静だよね。リリーナ、落ちついて、お願いだから」
「無理」
リリーナがゆっくり鎌を手に取る。僕の顔が引きつるのがわかった。
「話、聞かせてもらうから」
「はい」
僕は素直に頷くしか生き残る選択肢はなかった。
「ふーん。年の近い悠人に宝探しの手伝いをして欲しいってこと?」
「はい」
女の子が神妙に頷く。僕と女の子はどうしてかわからないけれど三人分ぐらいの距離を離されていた。どうしてかわからない。わからないけれど、
僕と女の子の間に鎌が突き刺さっているから何も聞けない。
「どうして宝探しなのよ。そんな子供みたいな」
「僕たち子供だよね」
リリーナが無言で鎌を手に取る。僕は全力で口を閉ざした。
「宝探しって何があるの?」
「えっと、これ」
女の子がリュックから紙を取り出した。そこに書かれているのは地図。
ただ、これは狭間市の地図だ。少しの違いはあるけれど大体あっている。だけど、山の中に通路見たいなものが描かれていた。まるで、地下通路。
それに、何か書かれてある。知っている文字じゃないけど、これは、
「アル・アジフさんの魔術書の文字と同じだ」
「そうなんですか? よかった。アル・アジフさんなら解読できるかもしれないと父から言われて。何か重要なものだと思うんです。何か分かりませんけど」
「重要って、宝の地図は大体が」
「狭間研究所?」
僕は地図の一番上に書かれている文字を見た瞬間、その意味がわかってきた。どうしてかわからない。知らない文字のはずなのに。
僕が小さくつぶやいた瞬間、僕は二人が僕を見ているのがわかった。
「えっと、読めるんですか?」
「どうしてだろう。知らないはずなのに。知らないはずなのに読める」
僕はさらに読もうとするけど意味が全く分からない。でも、一番上の文字はわかった。
「リリーナ。それを探そう」
「えっ? えっ? でも、今はここの復旧を」
「復旧が終わったら。お願い。どうしてかわからないけど行かないといけない気がしたんだ」
僕は地図をしっかり見ながら言った。
「何があるかわからないけど、これからの嫌な感じと共に感じる」
僕は地図を手に取った。
「新たな、可能性を」