第百十五話 新世界
今までの分の加筆修正が全く進んでいませんが、物語を進めて行こうと思います。
この話は今までと話が大きく違うことを言いたいものです。
久しぶりに腕をそでに通す。この服を着るのは久しぶりだ。オレがまだ前の正規部隊にいた時以来か。
第76移動隊ではこんな服を着る必要がないからな。『GF』の制服なんて。でも、そうは言っていられない。
オレ達が参加する会議は非公式とはいえ『GF』に『ES』。さらには魔界のトップまで参加する会議だからだ。そんな会議に普通の服で行けるわけがない。だから、オレは服をしっかり着る。
体の調子は最悪だ。全身が筋肉痛であり、右腕の筋肉の一部が抜く離れを起こしかけていた。もちろん、強制的に繋げたから大丈夫だ。
「ブラストドライブの影響だよな。オーバードライブの方がよかったかな。でも、あれは秘密兵器にしておきたいからな」
「お兄ちゃん、起きてる?」
オレがしっかり『GF』の制服を着終えると同時にドアが開き、そこから由姫が顔をのぞかせた。入院することになったのだが、朝一番で帰ってきた。まあ、しばらくすれば検査をするために病院に向かうらしいが。
その後ろには心配したのか目を真っ赤にしている亜紗の姿がある。
「大丈夫だ。亜紗は平気なのか? お前もブラストドライブになっただろ」
『私は大丈夫。周さんと違って時間を計算して使用していたから。でも、周さんは無理をしていると思う。だから』
亜紗は知っている。オレと同じだから。だから、ブラストドライブの本当の危険性を。
オレは小さく頷いた。
「心配してくれてありがとうな。でも、オレはやらないといけない。今回はそれほど大事な会議だ。悠聖が一番頑張ってくれるけどな。二人はここの留守番を頼む」
「うん。だけど」
「無理はしない」
自分の体のことは自分が一番わかっている。それに、今のオレにはレヴァンティンがいる。こいつは些細なことでも気がつくからな。
オレは二人の頭を撫でて歩き出した。身に纏う銀白の衣装をしおっかりただし、オレを待っている四人の元に向かう。
「精霊界で起き始めた異変。もしかして、繋がっているのか?」
唐突に湧いた考えを小さな声で口にしながらオレは外に出るドアに手をかけた。
『今回の調べたことは精霊界代表として我、ディアボルガが話させてもらおう』
ディアボルガが手に資料を持ちながら話しだす。ただ、その光景はどこかシュールだった。
この会議に出席しているのは『GF』からオレ、孝治、悠聖、慧海。『ES』穏健派からアル・アジフ。過激派から楓と冬華。魔界からギルガメシュと刹那が参加している。
『今回の事件は精霊召喚符と呼ばれる我らの知らぬ力によって呼び出された複数の精霊が同時にシンクロして起こったものだ。小さなものも数えて約200件ほど。死者は『GF』や『ES』側も合わせて48名。精霊側は23名だ』
精霊召喚符というものはレヴァンティンからいくつか聞いている。
精霊の召喚には自己流の魔術陣を必要とする。そして、現れるのは自分の技量にあった精霊のみだ。世界に精霊召喚師はたくさんいるけれど、その法則を捻じ曲げた者は今までいなかった。精霊召喚符が出るまでは。
精霊召喚符は自分の技量以上を精霊と召喚できる。それは今までの法則を捻じ曲げるもの。そんなものが存在していいかと尋ねられれば存在していいわけがない。そもそも、精霊との契約は神聖な儀式だ。そのようなものに頼るのはよくない。
『召喚時には強制的に呼び出されて強制的に契約させられる。これは契約候補だけでなく、精霊界の一般人も同様だ。我らも対策を練ろうとしたが、術式が難解すぎてわからなかった』
それには純粋な驚きを隠せない。精霊の魔術解析は常人離れしており、精霊召喚師相手には迂闊な魔術師用は解析されて対抗策を考えられやすいと言われている。その精霊が解析できなかった者。
術式が難解というのも気になる。どういうレベルで難解なのかだ。パターンさえわかればどうにかなるような気もするが。
『精霊後の召喚はシンクロではなくユニゾンを行うらしい。シンクロよりも融合率は高いみたいだな。だが、そのせいで精霊と術者が暴走する事件が発生している。我らが調べた結果はこれだけだ』
ディアボルガが姿を消す。用が済んだと言わんばかりだが、ディアボルガの体の大きさが座れる場所がないのも事実だ。実際に、ギルガメシュは椅子に座らず空気椅子をしている。
こっちの場合はただのバカなだけか。
シンクロとユニゾン。精霊を体内に取り込むという点では同じだが、ユニゾンは強制的に取り込んでいるようにしか聞こえない。シンクロは精霊側に主導権があるため、シンクロするかどうかは精霊側が決める。もちろん、術者の求めに応じてだが。それは信頼のおける術者しかしないものだ。
シンクロというのは自らを術者にさらけ出すことと同意であるから。by悠聖
ディアボルガの言葉を聞いていた慧海が頷いて立ち上がる。
「ディアボルガの報告にあったように、精霊召喚符となるものによる事件が多発している。出自は不明だ。悠聖、お前の意見を聞きたい」
「了解」
悠聖は立ち上がった。手にあるのはアルネウラに調べてもらった資料だな。
「今回の事件は私の見解から述べまして何らかの計画のもと成り立っているものだと考えます。理由は、事件の発生場所が固まっていること。事件が起きているのは現在、日本では関東、関西、九州の三ヶ所を中心とした場所。中国は上海、北京周辺。インドはハイゼンベルグ周辺。オーストラリアではシドニー周辺。イラクやイランでも確認されております。これらはアジアでしか発生していない。つまり、それらに関係があると私は考えています」
悠聖にしては珍しい会議中の話し方だ。この中では悠聖が一番下っ端であることには変わりないからな。まあ、妥当な判断だろう。
「そこから調べた結果、アルネウラに手伝ってもらい魔力孔を調べてみました。その結果がこれです」
基本的に人が集まるところには魔力が集まりやすい。正確に言えば、魔力が照射される魔力孔がある場所には人が集まりやすいというべきか。それに目を付けるのは正しい。
悠聖が投射装置に記憶媒体とデバイスを繋げる。そして、スクリーンに画像が映し出された。
精霊のみが見ることが出来ると言われる魔力孔。その映像が映っている。
見るからいただの穴のように見えるが、実際は異なっている。その全てが魔術によって形成された存在。目を凝らしてみると、穴の外壁が脈動しているのがわかる。魔力粒子の動きに作用して魔術が生まれ変わって言ってるのだ。生きているという表現もあながち間違いではない。
ただ、これはオレの知る魔力孔とは違うものだ。
オレの知る魔力孔は綺麗な孔というべきか、平らな場所にぽっかり円形の穴が開いているのだが、これはいびつな形になっている。
「このように形が変わっています。アルネウラが詳しく調べようとしましたが、精霊界とのパスが繋がっていないらしく、近づくことができませんでした」
精霊界とのパスが繋がっていない?
初めて聞く言葉だ。オレがただ知らないだけかもしれないが。
「初めて聞く言葉じゃな。周はどうじゃ?」
「オレもだ。悠聖、説明を」
「ああ」
悠聖がデバイスを操作する。どうやらそれを想定して資料を作り出しているらしい。
「精霊界のパスとは精霊がその世界に通る道のこと。精霊界と世界を結ぶバイパスという表現が一番正しいです。これは、魔力孔を伝ったもので、パスが一度でも通れば精霊はその世界に行くことが出来ます」
つまり、形を変えた魔力孔はオレ達が認識する世界とは別の世界、精霊すらも把握していない世界につながっている可能性があるのか。それはそれで厄介だな。
「このパスが通っていないということは、今まで精霊が立ち入ったことのない世界に繋がる可能性があります。今はまだ魔力孔として機能していますが、このまま事件が大きくなればいつかはそうなるかと」
「わかった。座ってくれ」
一応、まとめ役を買って出た慧海の言葉に悠聖が座る。慧海は小さくため息をついていた。思っていたものよりも事態が深刻だとわかったのだろう。
厄介なことこの上ないけれど。
「『GF』が把握している内容は悠聖達が報告してくれた内容と比べても格段に劣っている。だが、最後の別世界とつながっている可能性について面白い情報と『ES』に尋ねたいことがある」
慧海はオレをちらっと見てきた。何かあるのか?
「まず一つ目。面白い情報のことだ。今朝、狭間市郊外の森の中で何か巨大な物体が動いた形跡があった。大きさは10mは越えるだろう。足跡から判断して、魔物ではない。天魔でもない。痕跡としては枝がたくさん折れたり、いくつかの木々が倒れたくらい。状況から判断して昨日の戦闘途中の可能性が高い」
10mを超える存在がこの狭間市にいるとするなら、それは魔物か天魔の二つに一つ。だが、それは違っている。つまり、何か別の大きさの存在。10m以上の大きさのもの。
オレが思いだしたのはドラゴンと戦う大きな黒い人型のもの。
「フュリアス」
「じゃな」
オレの言葉にアル・アジフが頷く。
「『ES』が昨日使っていた人型のもの。今の会話を聞く限りフュリアスか? それは何なんだ? 時雨からはそれらしい話を聞いたことはないが」
「そうじゃな。人型の兵器。中に人が乗り込むことによって動かすことのできるものじゃ。『ES』が開発しているものじゃ。今のところ、一番進んでいるのが我ら穏健派の持つフュリアスじゃ」
あのドラゴンを倒したフュリアス。確かに、あのレベルが実用化されるなら脅威だ。まあ、パイロットは育成することは難しいけれど。
この場合は悠人が凄すぎるだけか。
「じゃが、我らの他のフュリアスや過激派のフュリアスではそのような痕跡だけでは済まぬはずじゃ。最先端のフュリアスは第三世代と我らは呼んでおる。それですら、試作されたのは一機のみ。それ以外は第二世代じゃ。第二世代は駆動時間が短く、体も大きい。移動すれば大きな痕跡を残すことになる」
第二世代がどんなものか見たことはないが、アル・アジフの話を聞く限り別のフュリアスということになる。ただ、そのフュリアスが存在するかどうかと尋ねられればオレはありえないと答えるだろう。アル・アジフも。
オレもアル・アジフもそんな痕跡で済ませれるなら第三世代以上だと言う。つまり、
「『ES』ではない別勢力のフュリアス」
「それしか考えられないよな。周、何か心当たりはないのか?」
オレは小さくため息をついた。
「あのな、オレが全てを知っているわけじゃないから。今言った言葉もそう判断できる材料があったからだ。実際、第三世代以上のフュリアスが運用できる組織なんてこの世界には存在しな」
オレはその言葉を止めた。急に頭の中で悠聖の報告が思い浮かんだからだ。
魔力孔の異常。別世界につながっている可能性。そして、『ES』以外のフュリアスの存在。最新型を超えるフュリアス。
それらを一本に繋げることが出来る。でも、非現実的だ。だが、それを仮定するなら、アル・アジフとの会話にあったオーバーテクノロジーとして部品すら見つからないフュリアスのその理由が出来上がる。
頭の中で展開される理論。
「どうかしたのか?」
横にいる孝治が不安そうに尋ねてきた。オレは小さく頷く。
「繋がった」
「はあ?」
「繋がったんだよ。今までの話が。慧海、時雨に連絡を頼む。別世界のフュリアスが入り込んでいる可能性がある」
「ちょっと待て。ちょっと待ってくれ」
慧海がわけがわからないという風にオレに向かって言う。実際にわけがわかっていないのだろう。この場にいる全員が。いや、アル・アジフ以外が。
「順序立てて説明してくれ」
「わかった。アル・アジフから聞いた話なんだが、この世界ではオーバーテクノロジーとして作られたフュリアスの部品が見つからないと聞いたことがある。それは、フュリアス自体が魔科学時代に作られていた記録があるという話なんだが、それは時雨にしたことがあるから詳しい話は時雨から。その部品すら見つからないということにオレは一つの仮説を立てた」
オレは自信を持って言う。
「フュリアスの部品及びデータは別世界に移された」
「えっと、周君。全く話が理解できないけど」
「奇遇ね。私もよ。それが善知鳥慧海の話にどうつながるかがわからない。そんなフュリアスの始まりの話をされても」
二人の反応が普通だ。今の話では慧海の話につながらない。
「わかってる。その世界ではフュリアスの開発が続けられていた。それが第三世代以上のフュリアスが存在する理由だ」
「いきなりそっちからッスか。魔王様、どうしたッスか?」
「何でもない」
ギルガメシュがやたらオレを睨めつけているのが目に入ったのか刹那が不思議そうに尋ねた。ギルガメシュはオレを射殺さんばかりに睨みつけてきているけど。
とりあえず、これがオレの考えたことの一つ目。一番難しいであろう第三世代以上のフュリアスが存在する理由の推測。
「話を戻す。次は悠聖の報告だ。魔力孔の異常。それを精霊召喚符をばらまくと言う方法で行われているけど、それの真相は別世界とのゲートを新たに作り出すこと。このゲートはかなり大きめだ。フュリアスの大群が簡単に出入りできるくらいに」
「おい、まさか、お前の言おうとしていることは」
「魔界、天界、精霊界以外に、この世界はもう一つの世界と極秘裏にゲートが繋がっている。そう考えるのが妥当だ。その世界は、フュリアスが発展している世界。その世界がここに乗り込むために精霊召喚符をばらまいている。手順が違うのは今まで築き上げてきた魔術文化が違うから」
ここの話がすべてつながった。精霊召喚符による事件や、精霊召喚符による魔力孔の異常。狭間市に現れた謎の巨大な存在。それらが全て一つにつなげることが出来る。強引ではなく、簡単に。
「精霊召喚符の原因は別世界からの工作。それを前提に作戦を組めるか?」
精霊、フュリアスがこれからの物語の中心です。後、学園生活も。
派手に暴れさせていきます。