第百十話 戦いの終結
前半終わります。
戦いが終わった。
オレは小さく息を吐いてその場に寝転がる。はっきり言ってもう動きたくない。麓の方から歓声が聞こえてくるが、まあ、気にしなくていいだろう。
向こうも勝てたらしい。
「お疲れ様」
いつの間にか近寄ってきた楓が声をかけてきた。体を起こしてみると、ほとんど全員がその場に座り込んでいる。
立っているのは悠聖と冬華。つか、抱き合ってるし。
「そっか。冬華って悠聖の幼なじみか」
「みたいだね。私もびっくりした。本当なら、私達は動かないつもりだったけど、冬華が『悠聖を助けに行く』って言って」
「それで来たと」
どうりで過激派なのに参加してきたというわけだ。というか、独断で行動しても大丈夫なのかよ。
「それよりも、生きていたんだな」
「うん。アリエル・ロワソに助けられてね」
あの日、『赤のクリスマス』の日。オレと妹の茜、そして、幼なじみの中村と楓は一緒にいた。一緒にいて巻き込まれた。
一時は茜と中村とはぐれ、二人で身を寄せ合っていたが、オレは瓦礫の崩壊に巻き込まれ気絶した。それから楓とは会っていない。連絡すら取り合っていない。
だから、今日まで死んだと思っていた。
「生きていて良かった。だけど、あの事件は」
「ちゃんと知っているよ。アリエル・ロワソは私に復讐心を植え付けようとしたけど、最終的にアリエル・ロワソが悪いって結論になったから」
まあ、オレが狙われるようになったのはアリエル・ロワソ達がオレの体を改造したことが原因だからな。巡りに巡ってアリエル・ロワソが原因になるわけだ。
オレは小さく息を吐いて立ち上がった。そのまま由姫の場所に歩み寄る。
由姫はその場に座り込んでいる上、顔色は本当に危ない。病院に連れて行った方がいい。
「由姫、大丈夫か?」
「あははっ、頑張りすぎちゃった。でも、ようやく、私は白百合として胸を張れるよね」
オレは笑みを浮かべながら由姫の頭を撫でてやる。
「十分だ。音姉、由姫を頼む」
「うん。私が、やったから。私が由姫ちゃんをちゃんと見るよ」
由姫の横に寄り添う音姉にオレは笑みを浮かべて頷いて立ち上がった。
とりあえず、いちゃいちゃしている浩平とリースは無視して、孝治と中村は、寝てるみたいだな。静かにしておこう。
オレは抱き合っている悠聖と冬華に近づいた。
「ご苦労様。援軍助かったぜ」
オレがそう声をかけると二人は一瞬、いや、刹那で離れた。まばたきした瞬間には離れているってすごいよな。
「あ、当たり前よ。私達が強いなんて当たり前だからね」
ビシッとオレを指差しながら言う。顔が赤いのは仕方ないか。
「本当にびっくりした。ここに来たら冬華がいるからな。そうだ。麓に七葉がいるから会っていけよ」
「行く!」
即答だった。考える時間くらい作れよ。
「仲睦まじいことで。つかさ、フェンリルって精霊だよな」
オレの疑問に二人は頷いた。
「位は?」
「最上級」
悠聖の言葉にオレは固まった。まあ、最上級精霊がここに三体存在するなら誰だって驚くだろう。だけど、オレが驚いているのはそれだけじゃない。
オレは向こうを指差した。
「アルネウラは中級精霊って聞いているけど、どういうことだ?」
向こうではフェンリルをアルネウラが追いかけていた。最上級精霊を中級精霊が追いかけている。どういう構図だ?
フェンリルは狼でアルネウラは音姉より少し上って感じの外見だから、犬を追いかける少女と例えればわかりやすい。
「オレも驚いている。ディアボルガ、何か知っているか?」
『我が知っていることは、アルネウラが生まれた時によく世話をしていたのがフェンリルだと聞くが』
納得。
オレ達は同時に頷いていた。アルネウラがフェンリルに抱きついてもふもふしているのを見ながら。
「あのもふもふは気持ちいいのよね」
「羨ましいぜ。オレの精霊達なんて」
もふもふする場所がないよな。オレは小さく溜息をついて二人を見た。
「じゃあ、また。声をかける相手が二組ほど残っているからな」
オレはエレノアを指差した。ベリエとアリエがそばについている。
二人が頷くのを確認してオレは歩き出した。
「終わったな」
オレが声をかけるとエレノアはオレを見て、そして、頭を下げた。
「すまない。余達のせいでこんなことに」
「オレは気にしてねえよ。ただ、貴族派は解散か?」
エレノアは頷く。貴族派の戦力は大幅に減った。たくさんオレ達が殺した。だから、もう、貴族派は活動できない。そう思っている。
「余は一度魔界に帰り、貴族派の解散を宣言する。『炎帝』の役目も降りるしかない」
「さろうな。オレが知っている限りでも、『炎帝』としては十分な能力を持った奴らはたくさんいる」
千春の場合はレアスキルでもある『浸食』の力があったからこそ『水帝』になったのだろう。エレノアはおそらくその火力。魔界にはたくさんの実力者がいるから何かが秀でていなければなれない。
オレは小さくため息をついた。
「まあ、一度整理がついたら遊びに来いよ。『炎帝』としてじゃなくて、エレノアとして」
「いいの?」
「ああ。その代わり、正規の手段を使えよ。それくらいなら時雨が手回ししてくれるさ。さて」
オレは都に歩み寄る。都は千春の亡骸を抱きしめていた。
敵でありながら最後は都を救おうとした少女。多分、悩んだに違いない。『水帝』のクラリーネとしての自分と、都の親友としての自分。誰の言葉や行為によって触発されたかわからないが、最終的には都の味方になってくれた。
「都、千春を弔おう」
「周様」
「千春は最後まで苦しんだんだ。そして、最後は都の味方になった。だから、弔おう」
都が涙を拭いて頷く。
「千春に家族は?」
「いません。一人暮らしです」
多分、魔界の頃から一人だったんだろうな。そして、一人のままこっちに来た。
「そっか。千春、オレはお前が都の味方になってくれてよかったと思っている。だから、静かに眠ってくれ。オレが、オレ達が、都を守るから」
空を見上げると太陽が次第に高く昇っていく。ほんの少しだけだけど。これが朝焼けだったらかっこいいなと思いつつ、オレは小さく息を吐いた。
「これで、終わりだ」
これで前半が終わります。ですが、狭間市の長い一日はまだ終わっていません。
後半の始まりはこの続き、というより宴会から始まります。
後半は、
・狭間の鬼の存在
・フュリアス
・精霊
を中心に進めて行こうかと。つまり、視点がまた変わります。今度は悠聖視点と悠人視点が多くなる予定です。
他には学園編ですかね。途中で体育祭を挟む予定。
ここまで読んでくれた方々、ありがとうございます。
前半部分の感想をお待ちしております。どんな些細なことでもいいのでお願いします。