第百五話 連携VS力
狭間の鬼の両腕がレヴァンティンを受け止めている。オレと鬼は完全に力が膠着しておりどちらも動きそうにない。
『白百合流ではなかったのか?』
「あいにくと、白百合流だけじゃないんでね」
お互いが同時に後ろに下がった瞬間、鬼目掛けて由姫が地面を蹴った。それに気づいた鬼はダウンバーストを放つ。
だが、その絶対無比の鎮圧技は由姫の右手によって打ち消された。レヴァンティンの相殺とは違う力の消され方。
「『『清浄』か!?』」
オレと鬼の声が重なった。その間にも由姫は鬼の懐に飛び込んでいる。
鬼はすかさず由姫に向かって右の拳を放つが、由姫はそれを軽々と左手で受け流し、右の肘を鳩尾に叩き込んだ。
鬼は微かに浮かび上がるが、左の拳を放つ。普通な当たる。だが、由姫は素早くその拳を肘で打って甲で頬を殴りつけた。ぶっちゃけありえない。
オレはレヴァンティンを鞘に収めて地面を蹴る。やる動作は紫電一閃からの紫電逆閃。
鬼に向かって一歩を踏み出しながらレヴァンティンを鞘から走らせる。鬼はとっさに右腕で防ごうとするが、紫電一閃は普通に腕を切り裂いて左胸から肩にかけて大きな傷を作り出す。そして、さらに一歩を踏み出して逆閃を放った。レヴァンティンは傷をさらに深くえぐり取る。
すぐさま距離を取りつつレヴァンティンをモードⅡに変える。変えながらモードⅡカノンを起動した。
鬼はその隙に体を修復する。だが、修復してすぐに後ろから迫った亜紗の刀が左腕を斬り落とした。
本来なここで鬼は振り返って攻撃するところだが、正面から由姫が迫って来ていたため振り返れない。
鬼は拳を振る。確実に当たるように横薙ぎに。だが、その拳は由姫によって上に打ち上げられた。由姫の拳が鬼の顎を捉える。
「消し炭になれ!」
モードⅡカノンの最大出力でオレは放った。
凄まじい衝撃と共に照準がブレそうになるが必死にこらえる。こらえた結果、エネルギーの塊は鬼にぶつかった瞬間に大爆発を起こした。
由姫がオレの横まで下がってくる。
「由姫、いつの間にそこまで強くなったんだ?」
「拳が相手なら愛佳師匠の方がはるかに強いから。力も、速度も」
まあ、あの人ならそれくらいはしそうだな。一応、戦場やら『GF』への参加やらはしていないからランキングには入っていないけど、裏社会を入れた場合、世界最強と言われている。
実際に、愛佳さんを怒らせた時雨が必死に土下座していたのを見たことはある。必死に土下座していたっけ。
「まあ、油断はするなよ」
「うん。お兄ちゃんこそ」
煙が晴れていく。晴れた先にいたのは無傷の金色の体。狭間の鬼の顔には笑みが浮かんでいた。
『完全復活していないとは言え、まさか、ここまでやられるとは。久しぶりだ。本当に久しぶりだ。そちらの人数は5人か。なら、本気を出していいよな』
鬼が一歩踏み出す。その踏み出しは魔力の圧力によって地面を砕いていた。
オレはモードⅡカノンからモードⅠである剣に戻す。嫌な予感がする。
『1分以内に何人立っていられるかな?』
オレは後ろに下がったはずだった。気づいた瞬間、狭間の鬼によって頭を掴まれている。
『まず一人』
そして、地面に叩きつけられた。
寸前で『天空の羽衣』を展開していなかったら確実に死んでいたように思える衝撃。地面を跳ねながら、向こうにいた亜紗が蹴り飛ばされて木に激突するのが見えた。
『二人目』
鬼が飛び上がる。狙うのは楓か。
楓は砲撃杖を向けて光を放つ。だが、極太の光を鬼は簡単に避けて楓の上に回り込んだ。そして、拳を振り下ろす。
楓はとっさに砲撃杖で受け止めるが、砲撃杖は簡単に砕けて拳が楓に突き刺さり、楓はそのまま地面に叩きつけられた。
『後二人』
鬼が動く。次に狙うのはおそらく冬華だ。一番厄介な由姫は一番最後。だから、オレはレヴァンティンをモードⅡカノンに変えていた。
地面に寝転がったまま最低限の出力で鬼に向かってエネルギーの塊を放つ。
完全な不意打ち。一度倒したはずの敵からの射撃は避けにくい、はずだった。だが、オレはそれを簡単に避けてオレに向かって指向性のダウンバーストを放つ。
オレはとっさにレヴァンティンでそれを相殺した。
だが、その隙に鬼は冬華に肉薄している。
冬華は氷を纏う刀を振る。だが、鬼はそれを側転で避けた。そこにフェンリルが体当たりを行うが、鬼は簡単にフェンリルを受け止める。受け止めて冬華をフェンリルで殴りつけた。
冬華の体が吹き飛び、フェンリルの体に鬼の拳が叩き込まれる。ここまでにかかった所要時間は大体20弱。圧倒的すぎる。
立っているのはオレと由姫だけ。あの速度は見ることが出来なかった。まるで、動くという現象をすっぽかしたように。
「そうか」
オレはとあることに気づいた瞬間、嫌な予感が駆け巡った。場所は右斜め後ろ。
体をしゃがみ込ませ、回転しながら鞘に収まったレヴァンティンを引き抜く。
白百合流黄泉送り『陽炎』。
レヴァンティンが鞘から抜かれた瞬間に目の前に狭間の鬼が現れる。その顔にあるのは驚愕。
レヴァンティンが狭間の鬼を真ん中から両断していた。
オレと由姫は同時に下がる。
鬼が使っていたのは孝治が持つ『影渡り』とよく似たものだろう。名前をつけるなら『狭間渡り』。
空間と空間を点で結んで瞬間的に移動する。そうでなければオレと亜紗が気づかない理由がわからなくなる。
尋常じゃない動体視力を発揮している今のオレ達がわからないなんてありえないから。
『まさか、理解されるとは』
「兄さんは第六感はすごいですからね。それが理由ではありませんか?」
「否定はしない」
レヴァンティンを構えながら答える。
第六感がすごいのは今に始まったことじゃない。今に始まったことじゃないからあまり気にしなくはなっている。
『厄介だな。厄介な貴様から潰させてもらおうか』
「やれるものなら」
「やらせないよ」
ぞわっと背中が泡立ったような感覚。この感覚になるのは尋常じゃない殺気を感じた時だ。
オレは前に鬼がいることを忘れて振り返る。そこにいるのはゆらりと立ち上がった音姉の姿。都が近くにいるということは怪我の治癒を行っていたのか。
「やらせないよ」
音姉がもう一度同じことを言う。ただ、その気配はいつもと違う。言うならば、あの時、貴族派の介入によって由姫が大怪我をした時みたいな気配。
「音姉、いや、鬼姫と呼んだ方がいいか?」
「弟くん、覚えていてくれたんだ」
音姉、いや、鬼姫はにっこり笑ってオレの前まで来る。にっこり笑っているが発せられる殺気は尋常じゃないほど濃い。
「お姉ちゃん?」
「そうだよ。でも、今の私は由姫ちゃんや弟くんの姉であって姉じゃないよ。ふふふっ」
鬼姫はオレ達の間を抜ける。そして、光輝の柄に手を置いて走り出した。距離は少し。速度は最速。そのまま光輝を振り切る。だが、光輝の刃は狭間の鬼によって受け止められていた。
『剣筋が違う。貴様、誰だ?』
狭間の鬼ですら音姉の変化に驚いていた。
オレはレヴァンティンを握りしめて地面を蹴る。そのまま鬼の横から回り込んで斬りかかった。
いや、斬りかかったはずだった。迫って来たのは光輝。とっさにレヴァンティンで弾くが返ってきた刃にレヴァンティンが叩き落とされた。
「なっ」
「邪魔をするな」
鬼姫はオレに光輝を向ける。明らかに絶体絶命だ。どうしよう。