第九十八話 浩平の過去
幕間を含めて100個目の話です。ちょうど最終決戦の真ん中にあたります。
読んでくださっている方ありがとうございます。ご意見ご感想をお待ちしていますので気になる点がありましたら教えてくださればありがたいです。
お気に入り登録も少しずつ増えているので頑張っていきたいと思います。
「一つ、聞いていい?」
リースは浩平の横を飛翔しながら尋ねる。ちなみに、浩平は必死に走っていた。
「あの烏天狗との過去を教えて欲しい」
「ああ。あいつはな父さんとお姉ちゃんの仇なんだ。俺の目の前で二人を殺した仇」
だけど、リースは首を傾げていた。
二人だけでいた時に浩平もリースもお互いの身の回りの話をしていたからだ。
リースはアル・アジフが親みたいな感じであり悠人は弟みたいな感じで過ごしていると言っている。
対する浩平は家族4人で暮らしていると言っていた記憶がある。父親、母親、姉、そして、浩平。
「今の親父や姉貴はお袋が再婚したんだよ。まあ、周みたいに姉弟関係は仲良くはないが、普通には暮らしている。でも、俺はあの日を忘れない」
あの日、浩平の父親の仕事が休みでまだ幼かった浩平は姉と一緒にゲームで遊んでいた。
父親は『GF』の部隊長で忙しい中でも見守ってくれていたのを浩平は覚えている。だが、その日、来客があった。
父親は玄関に向かい、姉は音量を落とす。対する浩平は真剣にゲームをしていた。
だが、それは父親の悲鳴に遮られる。
腹から血を流した父親の姿が見えて、姉は浩平を抱きしめた。そこに現れたのが烏天狗。
烏天狗はライフルを構えた父親からライフルをもぎ取ると、そのまま父親の頭を掴み握り潰した。
浩平の視界の中で父親の頭が弾け、顔に血やそれ以外のものが付着する。あまりのことに声を上げることが出来ず、烏天狗はそのまま姉の首を掴み、千切った。
姉の悲鳴が聞こえなくなると共に体中に血がかかり真っ赤になる。浩平が声を出せるようになったのはそれからだった。
そして、烏天狗がいなくなってから浩平は助け出された。緊急出動でやって来た母親によって。
烏天狗があの日に何を話したか覚えていない。でも、父親と姉の断末魔の悲鳴は今でも浩平は覚えている。
「まあ、そういうところだ。父さんもお姉ちゃんも俺を守ってくれた。だから、俺は天国にいる二人に元気で生きていることを示したかったから振る舞っていたんだ。リースに優しい言葉をかけたのも、自分のため。リースに優しくしていたのも復讐心を隠すため。俺って、最低だよな」
リースはその話に聞き覚えがあった。ちょうど、クロノス・ガイアの候補生になったころで、日本語の勉強中にその記事を読んだことがある。
悲惨な事件があり、浩平は復讐を誓った。その復讐心を隠して『GF』に入り強くなろうとした。それは、第76移動隊の半数以上に共通すること。
周は『赤のクリスマス』を起こした原因として強くなってそんなことは起こさせないように強くなろうとした。
光は『赤のクリスマス』後の周を見て、自分を犠牲にしてでも強くなろうとした。
孝治は『赤のクリスマス』により家が苦しくなり、お金を稼ぐために強くなろうとした。
亜紗は周に助けられ、周と一緒に自分と同じ人を作らせないために強くなろうとした。
悠聖は『赤のクリスマス』で大事な人を失った。だから、失いたくないから強くなろうとした。
誰もが様々な理由で強くなろうとした。そして、強くなった。その手段や方法は違っていても、強くなろうとしたことはリースは否定しない。
「私はそれでも浩平と会えて良かった。浩平がいてくれて良かった。今の私は今までとは違う。浩平と共にいるから今の私がいる。私は、今の私が好き」
「リース。俺は、今の俺が嫌いだ。こんなにも心配してくれる人がいるのに、俺は騙していた。リースは本当のことを話してくれたのに、俺は黙っていた。最低だ」
「うん。でも、誰にも話したくないことはある。アルなら自分の恋心。悠人はもっと友達が欲しいこと。周は隠し事はしたくないこと。孝治は浩平みたいに明るくなりたいこと。誰にだってある。私はそれを否定しない。それは、人を形取る中で大事なものだから。私はそんな浩平を認める」
浩平は悔しかった。ここまでリースが言ってくれるのに、浩平はほとんど言ってやれない。
でも、言えることは一つだけある。
「ありがとう。ありがとう、リース。俺はお前と出会えて良かった。だから」
浩平がフレヴァングを握りしめる。ようやく目的地が見えてきたのだ。
二人は同時に広場に到着していた。そこの中央に位置しているのは烏天狗。その手にあるのは巨大な剣。
「よく来たな小童。それにお嬢ちゃんもか。また、同じことを繰り返すつもりか?」
今回は誰も援軍には来ない。周達は儀式を止めるために戦っているし、アル・アジフ達は避難所区域を守るために必死で戦っている。
つまり、烏天狗の戦いでは浩平とリースの二人で倒さないといけない。でも、二人の気持ちは固まっていた。
「上から目線か。油断していると足下をすくわれるぜ。俺もリースもただの人間じゃない」
「ほう、神剣を持つからと言っていい気になるなよ。そのような力、我が剣である烏丸の前にはなんら役に立たん」
「勘違いしているようだな。たかがなまくら刀で俺のフレヴァングを止めれると思うなよ。俺は今までとは違う」
浩平はフレヴァングを構えた。
「お前をここで絶対に倒す。父さん、お姉ちゃん、見ていてくれ。リース、行くぞ!」
浩平がフレヴァングの引き金を引こうとした瞬間、広場が闇に包まれた。
「なっ」
「っつ、エルセル・ディオ・グイン・ラルフ」
リースがすかさず唱えて竜言語魔法を発動させる。辺りを照らす光に闇は払われた。
烏天狗は微動だにせずに笑みを浮かべている。
「始まったか」
「何の話だ!」
浩平はフレヴァングの引き金を引こうとした。だが、それは烏天狗の言葉によって止まる。
「狭間の夜だ。この世界を闇に沈める儀式の始まりだ」
それは、淡く光る満月の月と共に宣言された。
これから少し残酷な表現が多くなるので付け加えました。
前半最終決戦の真ん中ということで、これからの話の見所を箇条書きにします。
・狭間の夜とは何か?
・狭間の鬼とは何か?
・音姫のレアスキル『歌姫』。
・孝治の神剣『リバースゼロ』。
・儀式の行方。
この五つではないかなと思っています。
千春の行方やどうして狭間市の長い一日なのかなど、未だに話していない部分はいくつかありますが。
これからも視点や時間軸が目まぐるしく変わっていきますが、しっかりとした内容を書いていこうと思っています。
ご意見ご感想をお待ちしております。駄文小説をよくするために協力してくだされば作者のやる気が上がります。