第九話 海道正
いつになったら舞台が狭間市に入るのやら
「君は、真実を知りたくないかい?」
唐突に女性からそんな言葉をかけれらた。女性の服装はどこにでもいるような感じで、年齢に合った若い女性の服装だ。そして、顔立ちは、写真の中のお袋に似ている。
「誰だ?」
オレはレヴァンティンを構えた。柄の上に手を置いて抜刀の態勢に入る。いつでも攻撃できるように。
女性はそんなオレの姿を見て肩をすくめた。
「僕は今は敵ではないと言っておくよ」
「今は?」
「そうだね。将来に僕は君と戦う可能性だってある。それほどまでに未来は無限の可能性があるからね」
未来は無限の可能性があるというのはわかるが、女性の顔から判断するに、この人はそのいくつかの未来を知っているような感じだ。今は、という発言にも何らかの意図を感じる。ただ、敵意はない。
オレはレヴァンティンから手を離した。そうでもしないと話が進まないだろう。
「おや、信頼してくれるのかい?」
「信頼はしない。ただ、敵意のない奴にあの態勢のままでいるのは辛いだけだ」
だけど、魔術のストックは気付かれないように開始する。
見えないように魔術を発動させ待機状態のまま停止させる。やるのは結構簡単だが、気付かれないようにストックしておくのは難しい。ストックする魔術は派手に音が鳴るものだ。
「お前は何を知っている?」
「一応、君より年上のはずなんだけどね。とりあえず、自己紹介するよ、海道周君。僕は海道正。海道の性だけど、君の海道家とは関わりあいのない人物だよ」
「人物?」
関わりあいのないというなら一般人だけでいいはずだ。なのに、この人は人物と答えた。されにはオレの海道家か。つまり、
「隠したいのか?」
「察しが良くて助かるよ。僕は今回の事件の真相も知っている。ただ、詳細は知らない」
真相を知るのに詳細は知らないとはどういうことだ? まるで、結果だけを初めから知っているように言っている。
「僕はその真相を君が知りたいなら」
「いらない」
オレは答えた。真相だけ知っても何の価値もない。
その人は少し意外そうな顔で話を続ける。
「おや、真相を知りたくないのかい?」
「結果は聞きたくない。重要なのは過程だ」
「ほう。今までのヒントの中でそこまでたどり着いたんだね」
やはりわざとか。露骨に矛盾する言葉にして話をしたい内容をほのめかすことをこの人はしている。聞いてもらいたいじゃない。オレに悟ってもらいたいから。
オレは女性をにらみつけた。
「名前も怪しいな。それに、何故かお前を見ているとお袋を思い出す」
「へえ、君のお袋さんは六年ほど前に死んだのではないのかい?」
オレの心が一瞬だけ動揺するのがわかった。だけど、この事実なら調べればよく分かることだ。オレの親父とお袋は良くも悪くも有名人過ぎた。
オレはレヴァンティンの柄に手を置いて睨みつける。。
「答えをはぐらかしたいのか?」
「いや、僕の記憶では写真はないはずでね」
「家にたくさんあるけど?」
少し不思議に思ってきょとんとしながら真顔で聞き返すと、ここでようやく女性が驚いたような顔になった。そして、すぐに笑みを浮かべる。
「新しい未来か」
「何が言いたい?」
声が小さくて分かりにくかったが、未来という単語だけは聞きとることができた。
どういうことだ? 女性が真相をしていることに何か関係があるのか?
だけど、女性はすでに真顔に戻っている。その表情からはさっきの言葉の真意はわからない。
「いや、何でもないよ、どうやら、君は結果を知りたくないみたいだね。だったら、僕はもう行くよ」
「ちょっと待て」
最後に聞きたいことが一つだけできた。これだけは聞いておこう。
「未来は同じでも中身を変えることはできるか?」
「答えはイエスだよ。海道周をよろしくね。レヴァンティン」
そして、女性の姿が忽然と消えた。まるで、最初からそこにいなかったかのように。
でも、なんで、レヴァンティンのことを知っているんだ?
『マスター、知り合いではないですよね?』
「レヴァンティンこそ。記憶は鈍っていないのか?」
それに、オレはレヴァンティンのことを誰にも話したことがない。それは、家族にだってそうだ。
『愚問です。詳しくは答えたくないので言いませんが、私の製作者及び、今までの使用者の中で彼女と似た外見は誰一人としていません。それに、私が前回握られたのは約二千年前なので時代的にありえないかと』
でも、彼女はレヴァンティンのことを知っている。そして、これから起こる結果も知っている。
「未来からの旅人?」
考えられる答えは一つだけだ。ただ、それはあまりにも突拍子もない話だ。
「レヴァンティンはどう思う?」
だけど、レヴァンティンからの回答はない。
「レヴァンティン?」
『すみません。少し考え事をしていました』
「お前が考え込むなんて珍しいな」
レヴァンティンは基本的にあまり考え込まない。すぐに今まで経験から話すことが出来るのかここまで沈黙が長かったのは聞いたことがない。
「未来からの旅人という線は?」
『そのような魔術は魔法を含めて聞いたことがありません』
レヴァンティンの記憶は『GF』の集積デバイスよりも昔の情報があるということを今日初めて知ったけど、まさか、魔法まで網羅していたなんて。
「魔法って四千年ほど前に消えたって聞いたけど?」
『それは間違いです』
レヴァンティンは少し怒ってように言ってくる。
『魔法は今でも現存します。ただし、使い勝手が悪いため、使うものがいないだけです』
つまり、どこかの家系が一子相伝しているというわけか。納得した。
「今は考えても仕方ないか。レヴァンティン、帰ろう」
『そうですね。でも、あの人の発言からすると』
「口に出さずに思考の中で」
『了解です』
レヴァンティンが話すのを止める。
おそらく、レヴァンティンなら答えを知ってているに違いない。でも、無理には尋ねない。レヴァンティンが答えるわけがないし、それに、あの人とはまた会うような予感しかしなうからだ。
オレはレヴァンティンをペンダントに戻してポケットにしまった。そして、思考の中で会話をする。
『あの人の発言からすると、何かの事件が発生するものと思えます』
同感だ。だけど、それがオレ達にとってどうなるかはまだ分からないか。ややこしいな。探りを入れれるか?
『やってみます。ただ、相手にデバイスがなければ不可能です。又は、私と同じレベルのデバイスか』
つまり、レヴァンティンの作られた技術であるオーバーテクノロジーが使われたデバイス。そんなもの聞いたことがないけれど。
わかった。出来るだけ頼むな。わからなくてもいいから。
『了解です。では、これで』
オレは小さくため息をついた。ため息をついて、
「何が待っているんだろうな」
その問いに応える者は誰もいない。
デバイスについて(一部)
基本的な能力は本文で語っていますが、最後の方にあるレヴァンティンが剣からペンダントに戻ることについて。
デバイスは持ち主の魔術をサポートするように作られており、そのサポートの一つとして持ち主の武器を異空間から召喚する能力がある。もちろん、魔力を使用するが持ち運びに便利なので誰もが利用する。
ただし、欠点として大きくなればなるほど呼び出す際に必要な魔力は多くなるため手頃なサイズが多い剣、槍、杖が武器となる。