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輪外討伐戦線 ~宇宙人を信じていたら、宇宙パワーを手にした俺は~  作者: 弓藤千人


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第5話 退散と再会

抉抜けつばつ……」


女が低く唱えたその言葉に、背後で傍観していたはずの男がわずかに動揺を見せた。


「……おい、ほんとに分かってんのかよ」


男の制止は届かない。

全力で夜を駆けていた七星の視界、その真正面に、突如として人影が浮かび上がる。


(危ない――!)


今の自分は、制御を失い加速し続ける暴走車両も同然だ。

接触すれば相手を殺してしまう。回避か、跳躍か。

思考を巡らせようとした七星は、しかし、その思考を強制的に停止させられた。


目の前の影。

それは、数瞬前まで遥か後方にいたはずの、あの女だった。


「遅いわね。もう理解できた? 私から逃げ切るなんて、無謀なのよ」


女の声は、逃げ続けた自分を嘲笑うかのように冷たい。

脳裏を走馬灯がよぎる。……悪くはない人生だった。

宇宙オタクと馬鹿にされ続けても、夢を追い、そして最後にはその夢(宇宙人)に手を伸ばすことができたのだから。


女が先ほどとは比較にならない速度で肉薄し、その鋭利な手刀を振り下ろした瞬間。


「眠りなさい!!」


その一撃は、空を切り裂いた。

七星の意識よりも先に、肉体が、細胞が、迫りくる死を見切って跳躍していたのだ。

悔いはない――そんなのは嘘だった。

手に入れた未知なる力、宇宙との遭遇。この物語の続きを、俺はまだ、一文字も読んでいない。


(……こんなところで、終わりたくない!)


「宇宙人は、実在したんだ!!!」


極限状態で飛び出したのは、状況にそぐわない、けれど七星の魂そのものと言える叫びだった。

その言葉が、女の逆鱗に触れる。

先ほどまでの整った容姿が嘘のように一変し、その顔は夜の闇さえも凍りつかせる「鬼の形相」へと歪んだ。


「――もういい。この愚かな『輪外りんがい』がぁ!!」


女は右手をピストルの形に構え、その人差し指の先を、滞空する七星の眉間へと固定する。


「待て! 止めろ! そんなの、耐えられるわけねえだろ!」


距離を保っていた男が、顔色を変えて急接近する。

その速度は、全能力を解放した女のそれをすら凌駕していた。

だが、引き金は既に引かれようとしていた。


「パン!」


乾いた、間の抜けたような音が夜の路地に響いた。

あっけに取られたのは、滞空していた七星だけではない。

攻撃を放とうとした女も、助けに入ろうとした男も。


「はーい、そこまで〜。 ストップ、ストップ」


いつの間にか、そこにいた。

瞬間移動という言葉以外では説明がつかない。

まるで最初からそこに風景の一部として存在していたかのように、髭面の男が唐突に現れていた。

男は、七星の眉間に向けられていた女の鋭い指先を、大きな手のひらで優しく、赤子をあやすように包み込む。


「なんで! なんで止めるのよ! あいつは『輪外』なのよ!」


女の叫びは、諭されて収まるどころか、むしろ屈辱に震え、激しさを増していく。

髭面の男は溜息をつくと、先ほどまで遠くで静観していた青年に視線を送った。


さく


「……はいよ」


短いやり取り。

次の瞬間、先ほどまで静観していた朔が影のように動き、女の首筋へ流麗な手刀を浴びせた。


「……っ」


悲鳴すら上げられず、女の体が力なく崩れ落ちる。

それを朔が手際よく支え、夜の静寂が再びその場を支配した。


七星は荒い息を吐きながら目の前の「髭面の男」を見つめた。

助かった。

だが、先ほどの二人よりも底の知れない圧倒的な「圧」が、その髭面の男からは溢れ出していた。


「なんで君たちは、いつもいつも、こうなのさぁ……」


髭面の男は心底困り果てたように肩を落とし、深いため息を夜気に吐き出した。


「俺はやめとけって言ったんだぜ? なぎがさ、隊長が来る前に捕まえちゃおうって聞かなくて……」


「そこをコントロールするのが君の役目でしょうが」


髭面の男はそう言うと、朔という青年の額に、お仕置きのようなデコピンを軽く見舞った。


「いってぇ! なんで俺なんだよ!」


「なんでじゃない! お兄ちゃんでしょうが。」


「お兄ちゃんちゃうわ!!」


先ほどまでの「殺す・殺される」の極限状態はどこへ行ったのか。

目の前で繰り広げられるのは、深夜の路地裏にはあまりに不釣り合いな、ウケどころのない漫才のようなやり取り。

七星の思考は完全に停止していた。

全力の逃走、空間の欠落、そして死の宣告。

この一連の流れからの落差によるものだった。


あっけにとられ、口を半開きにしている七星の表情に気づくと、髭面の男は表情を崩し、親しみやすい――それでいて、有無を言わせぬ圧を孕んだ笑みを浮かべて語り始めた。


「君、――『輪外りんがい』なの?」


先ほどから何度も耳にしていたその言葉が、少し落ち着きを取り戻した今、ようやく明確な「問い」として七星の脳裏に刻まれた。

だが、意味がわからない。

その単語自体、これまでの人生で一度も聞いたことがないのだ。

自分がそれであるのかどうかさえ、判断のしようがなかった。


「……たぶん違いますけど。正直、何のことだか分かりません」


「そっか、そっか」


髭面の男は得心がいったように頷くが、傍らに立つ朔は違った。

その瞳には、隠しきれない疑念のの色が濃く張り付いている。


「てか、ごめんね。こいつら急に襲ってきたでしょ。私の教育不足です。本当にごめんなさい」


ぺこりと頭を下げる髭面の男。

その振る舞いには、先ほど凪を止めた時のような威圧感は微塵もなかった。

圧倒的な強者であることは肌で感じるのに、どこか威厳に欠け、捉えどころがない。


「謝罪はいいですから、聞きたいことが山積みなんです。あなたたちは何者なんですか? なんで俺が、こんな連中に襲われなきゃいけないんですか……!」


「その話は後でゆっくりしようか。まずは――退散」


「いや、俺は早く帰らないと……」


言葉を最後まで紡ぎ終えることはできなかった。

男が指をパチンと鳴らしたのか、あるいはただの瞬きだったのか。

七星の意識は、底知れない深い闇の底へと、一瞬で突き落とされた。


***


……どのくらいの時間が経ったのだろうか。


次に意識を取り戻したとき、俺は無機質な部屋の椅子に拘束されていた。

壁も床も、冷徹なまでの灰色。窓一つない空間。

普通ならここで、焦燥や不安、あるいは根源的な恐怖から「助けてくれ!」と叫び散らす局面なのだろう。

だが、不思議とそんな気分にはなれなかった。


宇宙パワーの覚醒。身体能力の爆発。そして昨夜、自分を凌駕する力を持つ者たちの襲撃。

あまりにも非現実的な日常を立て続けに叩き込まれたせいで、俺の「恐怖」という感情はとっくに麻痺していたらしい。

自分でも驚くほど、肝が据わっていた。


(……さて、どうしたものか)


じわりと手足の拘束の感触を確かめながら、これからの身の振りを考えていた、その時。

静寂を切り裂いて、扉が無機質なスライド音を響かせた。


「おっ。 目覚めてるじゃんか~」


現れたのは、あのお気楽な髭面の男。

昨夜、あの怪物じみた二人組が「隊長」と呼んでいた男だ。

彼は、重苦しい拘束室の空気など一切お構いなしという様子で、軽やかな足取りで近づいてくる。


「改めて、初めまして。一条七星くん」


男はそう言うと、こちらが拘束されていることなど忘れたかのように、人懐っこい笑みを浮かべた。

俺がその言葉に反応を示すより早く、彼の口角が、すっと、不自然なほど滑らかに下がった。


陽気な近所のおじさんのような表情は一変し、底の知れない深淵を覗かせる神妙な面持ちへと変わる。

部屋の空気が、一瞬で重力増したかのように、重く、鋭く、張り詰める。


「……じゃあ、約束通り。君の質問に答えていくとしようか」


男は椅子を逆手に引き寄せ、俺の目の前に座った。

その瞳は、もはや笑っていない。

そこにあるのは、世界の裏側を知る者だけが持つ、冷徹なまでの「真実」の光だった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


突如始まる異能の衝突、剥ぎ取られた日常は黒き沈黙へと収束する。

静寂の深淵で語られる「真実」は、少年の瞳に新たな宇宙を灯すのか、あるいは。


お読みいただきありがとうございます!


もし「続きが気になる」「面白そう」と思っていただけたら、 ページ下の【☆☆☆☆☆】から評価や、ブックマーク登録をしていただけると、執筆の励みになります!


次回、第6話は明日、3月20日(金)18時00分に更新予定です。

ぜひご覧ください!

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