第1話 宇宙人は存在する!
キーンコーンカーンコーン。
終業を告げるチャイムと同時に、教室内はいつにも増して騒がしくなった。
今日は12月24日。
クリスマスイブということもあるだろうが、高校生にとってはそれ以上に大きなイベントが控えている。
そう、冬休みだ。
「12/31、何する?」
「お前んちで過ごして、年越しは神社行こうぜ!」
「俺の家いけるかな? 母さんに聞いて後で連絡するわ」
とある男子グループの賑やかな会話が耳に届く。
「七星も来るか?」
声をかけてくれたのは、幼馴染の颯太だ。
このクラスで唯一、俺を色眼鏡で見ず、対等な「友」として接してくれる奴。
「いや、俺は予定があるから。ごめん!」
「了解! じゃあまた来年な。よいお年を!」
颯太は気さくに手を振り、また輪の中へと戻っていった。
幼馴染のよしみで誘ってくれるのは嬉しいが、俺のことを本当の意味で友達だと思ってくれている奴なんて、このクラスには彼以外にいない。
「なんでいつもあいつ誘うんだよ」
「あんな宇宙オタク、ほっとけばいいのに」
聞こえていないつもりだろうが、悪意を含んだ言葉というのは、不思議と地獄耳になる。
だが、今の俺にとってそんな陰口はどうでもよかった。
12月31日。
その日は、俺が信じてきた「例の日」なのだから。
俺は、宇宙人の存在を信じている。
小さい頃から宇宙にばかり興味があり、夢は宇宙飛行士になることだなんて、本気でほざいていた。
普通、こうした現実味のない空想への憧れは、成長とともに摩耗し、薄れていくものだ。
しかし、俺の場合は違った。
高校生になっても興味が薄れるどころか、その火はより激しく燃え盛っている。
自ら宇宙人について調べれば調べるほど、彼らが有しているであろう高度な科学技術や、未知の超能力といった「ロマン」に、俺の心は支配されていった。
そして今、その宇宙人をこの目で、生身で目撃できるチャンスが巡ってきたのだ。
拠り所にしたのは、三十年以上も前に刊行された『宇宙へGO!』という名の古い雑誌だ。
そこにあったとある宇宙研究家の寄稿記事。
「2099年12月31日から2100年1月1日に日付が変わる時、とある山の麓に宇宙人が現れる」
――ただそれだけが記されていた。
何の科学的根拠もない。
世間から見れば、ただのデタラメな記事だろう。
だが、宇宙に根拠など必要ないのだ。
この記事を目にしてからというもの、俺は調べ尽くし、ついにその「とある山」の正体を特定した。
俺の冬休みの予定は、もう決まっている。
今年の年越しは、宇宙人に逢うんだ。
***
12月31日。
ついに、この日がやってきた。
俺はこの瞬間のために、持てるすべてを懸けて準備してきた。
前日から某山の近くの宿に陣取り、装備も完璧に整えた。
氷点下まで下がる山の寒さに備え、高性能な登山用インナーと厚手のアウターを重ね着し、キャンプ用品も一式揃えた。
そして何より、宇宙人やUFOを捉えるための最先端望遠鏡――。
こいつを購入するために、どれだけのバイト代を注ぎ込んだか分からない。
「さあ、いつでも来い」
時刻は午前7時。
麓に到着した時、目的の時刻まではまだ気が遠くなるほど長かった。
三度の食事を済ませ、体温を保ちながらじっとその時を待つ。
気づけば、約束の刻限はもう目の前にまで迫っていた。
今頃、神社に集まった颯太たちは、賑やかに年越しのカウントダウンを始めているだろうか。
賑わう街の喧騒を遠くに想像しながら、俺も心の中でカウントを刻み始める。
(10……9……8……7……)
空には、吸い込まれそうなほど美しい星空が広がっている。
だが、肝心の宇宙人が現れる気配は、微塵もなかった。
(6……5……4……3……)
(……やはり、ただのデタラメだったのか)
絶望と冷たい風が胸を通り抜けた、その瞬間。
夜空の一角、無数にある星の一つが、弾かれたように光り輝いた。
それは流星などという生易しいものではない。
意志を持った一筋の光の矢となり、真っ直ぐに、正確に、この俺を目指して迫ってくる。
「うわっ……!?」
叫び声は、爆風のような光の渦にかき消された。
***
どのくらいの時間が経ったのだろうか。
一条七星が意識を取り戻したとき、世界は白々と明けていた。
「ん……っ」
重い瞼をこじ開けると、視界には透き通るような冬の青空が広がっていた。
(……なんで俺は、こんなところで寝ているんだ?)
体の節々に残る奇妙な痺れに眉を潜めながら、七星は混濁した意識を整理していく。
昨夜の記憶が、濁流のように押し寄せてきた。
そうだ。俺は確かに見た。
空から真っ直ぐに自分を目指して降り注いできた、あの人知を超えた星の光を。
七星はふらつく足取りで立ち上がり、周囲を見渡した。
すると、自分が倒れていた場所から三十メートルほど離れた地面が、大きく抉り取られたように窪んでいるのが目に飛び込んできた。
心臓の鼓動が早まる。
俺はその窪地へと吸い寄せられるように歩き出し、思考を巡らせた。
(俺以外に人はいなかったはずだ。この広範囲の地面を瞬時に窪ませるほどの衝撃……一体、何が起きた?)
物理現象としての異常。
それが導き出す答えは、彼の中で一つしかなかった。
(まさか……宇宙人が、本当にここに降り立ったのか?)
その思考が確信へと変わるのに、時間はかからなかった。
窪んだ地面の底に、はっきりと「何者か」の足跡が残されていたのだ。
(大きさは人間と大差ない。だが、こんな人里離れた冬の山奥に、俺以外の人間がわざわざやって来るとは考えにくい。……仮に人が通りかかったのなら、倒れている俺を放っておくはずがないだろう)
一つひとつ、論理のピースが嵌まっていく。
そして、全ての否定要素が消え去った後、七星の胸を突き上げたのは、筆舌に尽くしがたい驚愕と、魂の底からの歓喜だった。
「……いた。本当にいたんだ……」
震える声が、朝の静寂を切り裂く。
「宇宙人は……宇宙人は、存在したんだーー!!」
歓喜の雄たけびとともに、七星はこらえきれずその場で思い切り飛び跳ねた。
子供が喜びを爆発させるような、ごく自然な動作。
しかし、その軽やかな表情とは裏腹に、描かれた放物線は人知を超えていた。
七星の体は、ただの一跳びで地面から五メートルもの高さまで、まるで重力を無視するように吸い上げられたのだ。
「うわぁぁぁーーっ!?」
眼下に広がる地面が、一瞬にして遠のく。
自分の脚で飛んだはずなのに、視界に入ってくるのは見上げるはずの木々だった。
頂点に達した瞬間に訪れる、胃が浮き上がるような強烈な浮遊感。
そして一転、落下への恐怖が全身を襲う。
ドォォォンッ!!
凄まじい勢いで着地し、土煙が舞う。
だが、七星は反射的に手をついて立ち上がると、すぐさま自分の体の隅々までをなぞるように確認し始めた。
(……折れてない。痛みもない。これ、本当に俺の体か?)
膝の震えを抑えながら、先ほどまで自分がいた頭上の空間を見上げる。
どれほど優れたアスリートでも不可能な、圧倒的な跳躍力。
それが紛れもなく、一条七星という一個人の肉体から放たれたものであることを、体中の細胞が理解し始めていた。
それは、彼が夢見ていた「宇宙」が、ついに彼という器に宿った証。
そう、彼は手に入れたのだ。
物理法則さえも無視する、未知なる力――宇宙パワー(超能力)を。
ーーーーーーーーーー
宇宙人を信じ続けた少年のもとに、一筋の光が降り注ぐ。
手にした力は神の祝福か、星の呪いか。
次回、日常へと帰還した七星に、制御不能の「異変」が襲いかかる――。
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次回、第2話は明日、3月16日(月)18時00分更新予定です。
ぜひ、ご覧ください!




