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P.O.  作者: 非通知
1/1

炉慈転生

これは『好きと伝えたくて』よりも先にかんがえていたのですが、長くなりそうだったので後回しにしていたら、いつの間にか半年放置していた作品です。


“ガタッ…ガ…ガク…ガタガタ“

鉄と鉄が擦れる音。

 

それだけが、

その場所『衛核給屋(えいかくきゅうや)』に響く


人の頭蓋を模した鉛の体つき、

腕足は無く、

長細い鉄の尺とその先に、

鉄の溶けただけの間接。


足の代わりの腰についてる二つの車輪。


体の中の電動機(モーター)が動き、

車輪が廻って、

体を前へと進ませる。


ガタガタと私は、

求める様に給水ポンプへ向かっていった。


「ガシャンシャン…ガシャン

ァェーあ、お前か、

…勝手にやってくれ」


給水屋(きゅうすいや)の店主は、

ブリキで出来た眼球を見開き、

給水ポンプへ向かう私へそう言い放った。


この辺りの給水屋はここしかない、

だから私は何度もここに訪れている。


やり方も料金の制度も分かってる私には、

その説明が必要ないと、ぶっきらぼうだが店主はそう思っているらしい。


「毎度アザます」


首の関節をぎこちなく曲げ、

店主へ一礼をした。


もう長い付き合いだが、

この様な礼儀は社交辞令。


やりたくない訳でもないので、

私は店主へ礼を言う。


それから、

慣れた手つきで、

胸の貯水缶(ちょすいかん)の蓋に手を付けた。


ウィン ウィンウィン

グッグル グルグルグルグルグル


蓋を取ると、もう残り少ないタンクから、

白い水蒸気が私の顎に当たる。


水蒸気として消えてゆく()()()()()


少し…勿体ないなと、

ケチな考えが浮かんだ。


だが、スグにそれはいなくなる、

一瞬だけの存在だ。


給水ポンプから給水口を下に、

ホースを伸ばして、私の胸に入れる。


サイフォンポンプを手で掴み、

ギュッと握ると圧力で水が迫り上がった、


そして、“ジジャバンッジャジバンバン”

水が少しだけ残っていた水面にぶつかる。


まだ、入れるには早かったか…


そう思ったが、またも思考はすぐ消える。


貯水缶が空になれば、

死んでしまうのだ、


生きる事に必死なら、

多少、慎重過ぎても差支えはない。


「ガシャンガシャ…アェー 

そう頻繁に来る必要あるのかー?」


ジャッジョボッジャジボボジャジボ…

ボボッジャ…ジャボ…ボボ…ボ…


店主が何か言ってるが、聞こえないふりをして落ちる水滴を見る、


少しでも多く入れておきたいのだ。


だが、あまり意味はないだろう、

一滴二滴入れたとて、

私の限界は変わらない。


ただ、安心したい私を安心させるために、

そうするだけだ。


“ガタッピーピーピー“


完全に満ちると、

私の意志とは関係なく、

首の辺りの長細い三つの穴から音が出て、

赤いランプがつく、


これ以上入れるなという合図だ。


認識しやすい音だが、

少しうるさいと毎回思う、


"ピービービービィービィービイイ"


「アェーおい、大丈夫か?

なんか音がおかしいぞ」


"ビィービィー"


ホコリでも詰まったのか?

いつもより音が濁っている気がする。


"ビッ


「あ、止まった」


「アエーどっかおかしいなら、

医者行った方がいいかもな....」


「……そうだな」



店主の言う通り、

私はどこか悪いのかもしれない。


だが、どこがどう悪いか考えても仕方ないし、

どうしようも無いので、

またも考えるのをやめた。


蓋を取ってまた胸に、

同じ動作を逆にする。


グルグルグルグルグルグルグ…グググル


少し息を置いて、胸を見た。


メーターは黒まで上がっている、


しっかり給水出来ているらしい、


それではもう、ここに用はない、

さっさと代金を支払おう。


「ァェーお、終わったか?

待ってろー計算するから…

ガタガタ…カッカシャ…

ェーァェーァ…ピーピーピー

ガチャンッ五千八百銭…ほらっ」


店主が急かすように手を伸ばす。


値段を見て、私は嬉しくも不安でもあった。


いつもより値が安い

やはり給水するには早かったのかと


「はい、えーっと…………ガチャガチャ

あ、まずい小銭がないな……

あー万札でもいいかい?」


店主はまん丸の眼球に、

半分だけ瞼を下ろした、


嫌、といった表情を

表しているのだろう。


「本当に大きいのしかない?」


「悪いね」


申し訳ないといった表情を作りたいが、

生憎顔にはシワひとつ作ることは出来ない。

無表情で店主へ詫びた。


「ァェーじ、じぃじゃあ、

ここに、入れてくれや」


店主は自らの頭を差し出した。


禿げた硬い頭の先には、

太線でお札の挿入口が示されており、

そこに入れろということだろう。


店主は私とはまた違う『部解(ぶーかい)』だ。


体の構造が金銭登録機(レジ)になっており、

会計の全てを自分の体で行って、

仕事をしている、

生まれながらの会計係。


でも、会計のその度に、

体の中がぐちゃぐちゃになる感覚が、

不快感を呼び、

店主はあまり会計が好きじゃないらしい。


特に大きいお金を崩す時、

かなりの不快感をうけるそうだ。


何せ、何枚もの札と大量の銭が、

体の中を踊る。

少しの振動で不快感を感じてるなら、

最早これは、嫌がらせに近い行為、


それを分かっていてやるのは気が引ける……

だが、


私は客。


()()()()()()()()


私の要求には応えてもらわないと困る。

それが彼の仕事なんだから。


少し躊躇はしたが、

私は店主の頭に手を伸ばした。


ゥィーン

ガシャンガシャンガシャンガシャンシャン


「ゥ、ヴェー…ボボ…ピーピーピー。

ァェーアァァェー…ガシャン。

……………………

ァェーほれ、お釣りだクソ野郎…

レシートはぜってー作ってやんね」


“ジャリジャリジャリジャリ

バサッバサッサッ“


店主は私を見ながら、

カルトンにお釣りを雑に置いた。

彼の言う通りレシートはない。


思っていたより店主は怒っている。


これは私が店主をよく知っているのに、

万札を出すなんて非道な事をしたからだろう。


少し反省した。


でも、それを言葉として出さず一礼すると、

店主も後に続いて、


「毎度」と少し嫌味たらしく言葉にする。


私は衛核給屋を後にした。



攻殻層(こうかくそう) 畦道(かえるみち)


少し進んで一度止まる、

そして、また動いてからビタっと止まる。


道がぬかるんでいて、

車輪に泥が詰まるので、

いちいち確認しては取っているのだ。


いつもは砂利だが今日は濡れた砂、

面倒くさいが別にそこまででもない。


いつも通り、そういつも通りの習慣。


こう…覚えてる感覚が私に起こると、

それが…いつも通り、とそう思い、

そうあるべきって思うんだ。


外の空気にいつも通りを感じた。

風で錆びた鉄粉が飛んでゆく…


薄い光を放つ電灯が、タ、タ、タと点滅し、

錻の眼球を閉じさせる。


これ、そうこれこそ、この感覚こそが、

いつも通りなんだ。


ここの、この雰囲気、匂い、湿気に砂埃、

全部の感じと感覚が…

()()()()()()()


例え不快に思う事でも、

ここでは全て、

懐かしい感覚で埋め尽くされる、


なぜなら…

私はここを好いている。


ここは『電樂園(でんらくえん)

鉄と…錆の街だ。



連衡層(れんこうそう)南都(なんと)挟玄(きょうげん)(がい)


少し歩くと開けた公道(おもてどう)に出た、

今日は仕事は休みだが、

こうやって廻るのも悪くない。


なぜなら、ここでは様々な露店が出ていて、

仕事帰り、

又は仕事へ出勤する時に毎回通っている。


似たような店もあるが、

一つ一つ個性のあった装飾がされた綺麗な

露店が並んでいて、

どの店も多くの部解で賑わっている。


その中でも、一際目を引く店

快天(かいてん)』には、いつものように、

沢山の部解が集まっていた。


「うぇっ、凄い行列」


先が見えないほどの行列に、

少し蹌踉(よろ)ける。


ここはいつも繁盛していて、

まともに入店できた試しがない、

それに人気だが、

まだどんなお店か分かってない、


少し気になりはするが、

どうせ入れはしないし、

時間もない。


あまり気にすることはせず、

その横を通ると、

見覚えのある顔から声を掛けられた。


「お!トクトク…カンッ…あ、『炉君(ろーくん)』だ!

おーい炉君、ちょっと来いよー!」


……アイツは…隣の部屋に住む「二京(にきょう)」か、

私のように、小さな車輪ではなく、

()()()()()()()()()友達だ。


関節を雑に扱いながら、

私を手招きしている。


私は少し行くのを堪らったが、

ここで無視しては、後でドヤされると思い、

ガタガタッと車輪の方向を変えた。


ニ京の事は…少し苦手だ、

私が引っ込み思案なせいかもしれないが、

あんまり話したいと思えない。


「トクトク…あーおい見ろよ!

今日は…トクトク…入れるかもしれねぇぜ!」


快天の事を言っているらしい。


毎日毎日客でごった返しているから、

入れる部解も限られている。


私も以前行こうと思ってここに来て、

二時間待っても入れず、店が占められ、

諦めた覚えがある。


二京は今日は入れるかもしれないと言っているが、客の数を見てもそうは思えない。

いつもと変わらない、凄い人数だ。


それに今から私が予約しても、

今更で入れるわけがない。


二京に近づきながら、

そんなことを考えた。


「炉君!トクトク…炉君!…今日はマジで入れるぜ!…トクトク…お前も…

トクトク… 来いよ!」


二京は焦っているのか興奮しているのかわからない声で私に言う。


でも、私は首を左右に動かした。


「それは…良かったね、

でも、私は行けん、

今更予約取れねぇ」


頭で考えた事を省略した言葉を、

私は彼に言葉した。


「トクトク…でも、見てみろよッ…

あの看板ットクトク…」


二京に指さされた所に、

目をグルンと向ける、

そこにはデカデカと


“ゼンインブンアリマス”


そう書いてあった。


「ぜんいんぶんあります…か?

いいやいいやいいや……ただの謳い文句さ…

無理に決まってる」


全員分って、何か買う店なのか?

何も分からない店の、

よく分からない謳い文句を見ても、

それがいい事なのかどうかも分からない。


そう言いつつ、

本当に、ここにいる全員分あるのか?

という期待がパッと出た。


だが……


「それよりなによりさ、

私は『仕事』があるんだ

ここで時間を潰すわけにはいかんさ」


こう言った時の私は多分、

目が泳いでいたと思う、


あまり嘘は慣れていないから。


「そぅかートクトク…トクトク…

それは残念…トクトク…

仕事があるならしかたない…トクトク

なら、また…明日な…トクトク…

…ん?ちょっと待てットクトク、

お前…給水したバッカじゃないか、

トクトク…」


二京は私の胸のメーターを見ながらそう言う。


痛いところをつかれた。


「アッアッあぁ…そうだけど、

何か変か?」


「変さ変さ、どこの馬鹿が、

タンク満タンにして仕事をするんだ…

…トクトク……

『アルクスレーン』にかかりたいのか?」


二京は私を疑うような目で、

こっちを凝視してくる。


それには理由があった。


部解は動力源である『水』が貯水缶から

一滴もなくなると、意識を失う、


一度意識を失えば、

もう何リットル水を入れようも、

動く事はなくなる。


部解はそれを『死』と呼んでいる。




だから、定期的に衛核給屋のような給水屋に行かなければいけない。


だが、満タンにしたらしたで、

デメリットもある、


『水』は私たち部解の動力源ではあるが、

水自体は、体の中の、

他の部品にはあまり良くない。


呼吸をする『肺機』に詰まったり、

余分な老廃物を

越し出す『腸機』に入ったりしてしまうと、

体に不具合が生じて、

『アルクスレーン』にかかる。


アルクスレーンとは部解達の体の中で異常や危機を感知すると

自動で発動する生まれつきの機能で、

強制的に貯水缶の水を、

勝手に全て抜いてしまうのだ。


タンクが満タンの状態で激しい動きをすれば、モーターへと送る管『核菅』から水が漏れてアルクスレーンにかかりやすくなってしまう。


だから、多くの部解はタンクを満タンにした後、一日二日、仕事をお休みする。


普通はそうなのに、

仕事をすると言った私の言葉に、

二京が虚偽感覚(きょぎかんかく)を持つのは仕方がない事だ。



「休日は当たり前の部解の義務だぜ?…トクトク

……まさか、本当に仕事しに行くつもりか?」


二京は私の返しを待っているようだ。


私としては、

ただ早く帰りたいから

嘘をついただけなのだが……


……んん……ここで無理に断る事ないか…

それに快天に入るチャンスは今日っきりかもしれないし……


でもな…時間が…


「…まぁー悩むくらいなら、

辞めておいた方がいいかもな…トクトク

俺だって別に無理には誘わないよ…トクトク」


しまった…

二京に気を使わせてしまった。


「あぁ別に…嫌って訳じゃないんだ…

ただ…いつも通り…じゃなくなるから…

えっとぁーでもまぁ……」


「どうするんだ…トクトク……?」


なんだこの罪悪感は…

いつも通りじゃない事をするのは、

別に悪いことじゃない…

でもなぜか、とても拒否感を感じる……


だが……う、ここは…そうだな


腹を括るか。


「分かった…私も行く」


こんな難儀する問題じゃなかったか、

決めてしまえば心は楽だ。


「おぉートクトク……良かった良かった…

最近息抜き出来てなかったろぉ?

今日は、いっぱい休みな…トクトク」


私は二京の横に並んだ。




連衡層(れんこうそう)南都(なんと)挟玄(きょうげん)(がい)総連露店道(そうれんろてんどう)快天前(かいてんまえ)


…やっぱり入れるとは思えないな、

もうすぐ一日が終わってしまうと言うのに、

列は一向に進まない、


これじゃあ疲れを癒すどころか、

逆にストレスだ。


「んなぁー、帰ろうぜぇ?

多分もうすぐ店閉まる」


「いやいやいや、

今日は…トクトク…行ける気がするんだよ…」


「ニ京のその勘を信じて、

行けた試しがねぇーよ」


「トクトク …なら、

今日で…それが更新されるな、トクトク」


二京は自分を信じて疑わないようだ、

一人でそれならいいのだが、

私を巻き込んでるんだから、

ちょっとは気を遣ってほしい。


なんだか本当に疲れてきた、

給水したばかりだからだろう、

例え、ここが癒しの場所なんだとしても、

絶対今家で休む方が百%休める。


“ガチャガチャガチャガチャ”


「なんだぁ?」


「前の方…トクトク…じゃないか?」


上列の先の方から 何か音が聞こえる。


“ガチャガチャガチャガチャ”


…多分、話し声…か?


“ガチャガチャ…この…ガチャ…どうなって…

…どんだけ待たせるん…

ガチャ…店の部解をッ”


断片的に怒鳴り声が聞こえる。


クレームか?


体の関節をガチャガチャ言わせながら、

少し横に広い身体を持つ大柄の部解が、

スタッフと見られる部解に怒鳴りつけているのが見えた。


「トクトク…ありゃ相当()()()()()が上がってるな…」


「こんな待たされたら誰だって上がるわ」


私も結構イライラしてきているから、

あの部解の気持ちはわからないこともない、

だが、店の部解も大変だなって、

そんな気持ちだけだ。


しばらく暇だったので、

娯楽というわけじゃないが、

あの怒っている部解を見て暇を潰す。


ニ京もそれは同じ様で、

長い一本の列から、頭を左右に出して、

先頭に近いあそこを二人で見ている。




「は?」


「おいおい…トクトク、そりゃないだろ」



なんと店の従業員と見られる部解は、

激昂(げっこう)する部解を列の先頭に移動させ、

店の中に入れたのだ。


流石にそれは許されない、

こっちだってずっと待っているのに、

アイツ一人だけ特別扱いなんて

ふざけている。


「ちょっと文句言ってくるわ」


「やめとけって…トクトク」


「なんでさ?あんなのおかしいだろ」


「俺たちが行かなくても、

アイツに近かった部解の方がキレてるだろ、

わざわざいく必要ない……トクトク」


「確かに」


ニ京の言う通り、

前の方がもっと騒がしくなった。


聞こえてくるのは騒音と機関音、

さっきは店の部解が哀れだと思ったけど、

今は仕方ないよなって思う。



“キーン”



すると、何か鋭い残響が響く、

店員の部解が拡音機を持ったのか、

おそらくその音だ。


「え〜個数の状況的に、

足りない可能性が出てきてしまった為、

団体のお客様を優先します」


業務的にそう告げた従業員は気だるげに、

列に並ぶ団体客を数え始めた。


「団体って……俺達は団体だよな?」


「そのはず……トクトク」


もしからしたら入れるかもしれない、

そんな考えが頭に浮かぶ、


期待に胸を膨らます私と反対に、

ダルそうな従業員は、

一人一人数えながら、

とうとう私たちの前に来た。


「…ここまで、だな……

それでは、ご案内します」


さっきは少しイライラしたが、

これは本当に運がいいと思う。


「お、マジすか!?……トクトク、

やったな炉君!」


初めて二京に関わっていい事があったと、

彼の言うとおり、これで評価の更新になる。


「おう、じゃあ行けるな」


「……それでは、着いてきてください」


喜ぶ私たちを他所に、

従業員は暗い表情のまま、

店の中へと私達を案内した。


後ろで文句を喚く部解を遠目に見ながら。




快天(かいてん)


「二名……ですね!

それでは、料金は後払いなので伍番の部屋をお使いください!」


外の従業員と違い明るい声で、

受付の部解は私たちを迎え入れた。


どうゆう店かっていう説明すらしてくれないのはどうかと思うが、

まぁいいか、やっと入れたんだ、

噂では……


ただ生きてるだけじゃ、

絶対に出来ない経験ができる。


「二京は何回目だ?」


「あ?、あぁ、トクトク……初めてだけど?」


「マジか、てっきり経験者かと」


「いや、何回も並んで……トクトク……

今日やっと入れたんだ。

……結構緊張してんだぜこれでも、

炉君もどうよ、緊張してんじゃないのか?」


「まぁな」


実際緊張というより、

楽しみという感情の方が大きいけど。



そう話ながら、遂に部屋の前まで来た。


扉には大きく《伍》と筆で書かれていて、

錆びた鉄が大きく映る、

金属で出来ている。


「それじゃあ、……トクトク」


二京がドアノブに手をかける


「あぁ」


“ガチャ”


扉を、開けた。


《快天・伍番の間》


部屋の中はホテルの様な様相にでもなっているのかなと考えていたが、

普通のアパートの様な部屋になっていて、

キッチンがあって浴室があって寝室がある。


新築というより、誰かが、

まさに今住んでいる様な感じがした。


「あ、なんか書いてあるぞ」


壁紙の剥がれかけた壁に、

なにか、説明の書かれているポスターが貼ってあるのを見つけ、

目を細めてかすれた文字を読もうとする、


すると、大きく《注意事項》と書かれているのが見えた。


《注意事項》


・ コロシテハナラヌ


・ シンデシマッタバアイ

バッキン ヒャクマンセンヲハラウ


・ ジカンエンチョウハ コチラノデンワ




「読みにくいな……()()()()()()()…何をだ?」


「百万銭って、トクトク…なんの冗談だよ」



いくら読もうとも、

言葉の意味以外、よく分からなかった。


「まぁとにかく 、

この部屋で何か出来るんだ、

探してみるか」


薄く黄ばんだ壁、

食器のない食卓、

蜘蛛の巣の張った浴槽、


見れば見るほど、

ここがなんの店なのか分からなくなってくる。


「おい…トクトク、

ここ、なんかありそうじゃないか?」


二京が指さす先には、

おそらく寝室に繋がる扉があり、

木でできた扉には、(うじ)が湧いていて、

ただでさえ汚い部屋の中で、

最も不潔な場所だと思う。


「開けてみるか」


“ギュ“


ドアノブは、なんだか湿っていた。




《伍番の間・寝室》


部屋の中には、汚いベット一つだけがあり、

その上に薄汚れたシーツが被っていて、

少し、膨らんでいた。


「何か…トクトク、いるのか?」


「殺してはならぬって書いてあったし、

……まぁ、いないとおかしいよな」



“ゴソッ“


やはり何かいる、

姿は見えないが、少なくとも、

私の知る中であんな形の部解はいない…


なんだ……あれは…


「シーツ……取ってみるぞ」?




………………………………………………………………





「…………」


「…………トクトク」


二人とも言葉を失った。


驚いたからではない、

恐怖でもない、

それを、知らなかったからだ。


「……トクトク」


部屋の中には、

二京の煩いチックだけが響く。



ゴムでも、ガラスでも、鉄でもない、

初めて見る質感で黄色と白が混ざったような色。


短い黒色の糸?が頭部に束になって付いていて、

おそらく顔とされる部分には、

眼球以外に 穴のふたつ空いた出っ張り、

多分鼻……か?


その下には赤い穴と中に沢山の白い…石?が詰まっている。


そんな見たこともない頭部が、

()()()()()()()()()()()()()()

二京に付いている腕とは、

また違う質感の腕が、

黒い線の束の隙間から四本、

飛び出ている。


「……えっと……なんだ?

この……部解、ではないよな?」


「そうだが」


「!?」


思わず、のけ反ってしまう。


二京に話しかけたつもりだったが、

その謎の物体が私に返事をした。


「うわ……トクトク、びっくりした」


「喋っ……た」


私達がそうやって動じているのに、

目の前の物体はものすごく冷静に、

感情というものを出そうとしない。


「快天へようこそ、その反応を見るに、

多分お前らは初めてここに来たんだろ?


それじゃあ、自己紹介と、

ここがどうゆう場所が説明してやろう」


「あ、あぁ、頼む」


状況がちっとも理解できないが、

自分から説明してくれるなら有難い。


「それじゃあ……まず、


私は、『()()()』だ。


お前らが言った通り部解ではない、

神に使える使徒である」


「……はい?」


……マジで何を言っているのか、

全て理解できなかった。

自分の頭の良さは、

そこそこ良いと思っていたが、

これは今までの常識が通用しないレベルの

分からなさだ。


「何も理解できないだろうが、

それでいい、

私は私の目的を果たすだけだからな」


「目的?……トクトク」


テンシと名乗る存在は、

徐に手を伸ばし、

二京の心臓機に手を当てる。


“ドクンッドクンッ”と音が鳴っているのが、

よく聞こえた。


「何を……トクトク……」


「哀れな機械共よ、

ここは祝福を与えられる為の場だ。

手を出せ」


二京は何も分からないといった感じだが、

少なくとも、あんなに人気の店なんだ、

変なことはされないだろう。


「まぁ、ほら、手を繋いでみたらどうだ?」


「え、あ、あぁ……トクトク」


“ギュッ”


「それでいい……

あぁ、主よ、この存在に…

愛を、幸福を、祝福を与えて下さい」


謎な事が多いが、

きっと今から凄いことが起こるはず、



そんな期待をしていたのが

間違いだった。





“ブシャッ”


テンシが二京の手を握った瞬間、

二京の身体から水が吹き出る。


「!!!?」


「え…トク……」


ガクッ


二京は、

自分に何が起こったのか分からないのか、

……はたまた、死んだのか…動かない。



「二京?二京っ!おいっ!二京!」


“ガチャガチャッ“


動かない二京の肩に、

尺を引っ掛け左右に揺らすが

二京は一言も発さず、

身体はピクリとも動かない。


「お前、コイツに何した!?」


私の激情に対し、天使は真顔で私を見る。


「転生させた、来世は人間だ、良かったな」


「……ッ」


何を言っているのか、

言語は同じはずなのに、

知らない言葉が多すぎる。


横目に二京を見る、

やっぱり、二京は動く気配はなく、

身体から水を……吹き出している。


「二京を…殺したのか?」


そんな問いにも、天使の表情は変わらない。


「部解に生命という概念はない、

生きるも死ぬもない、

ほら、お前も来い」


「……ッ! やめろ!触るな!」


“キュルッキュルッ”


車輪を廻し、テンシから距離をとる、

アイツが何者なのかはわからないが、

絶対に友好的な……

安全な存在ではない事だけは分かる。


「逃げる気か?」


“ガチャッ……ガチャガチャ……


ドアノブを回そうとも、

二京のように立派な手の無い私は、

まともに扉を開けることも出来ない。


「……クソッ」


テンシは、私を追いかけるでもなく、

ずっと冷静に…私だけが馬鹿みたいにうごきまわっている。


“キュルッッキュルッッ“


尺を床にひっかけ、

地面を少しだけ早く移動しても、

この部屋から逃げられなければなんの意味もない。



「私たちが!……

何したって言うんだ…クソッが…」


「お前も祝福を受け取れ」


いつの間にか、テンシの手は長く伸びて、

私の前まで近づいていた。


「ほらっ握れ」


私は限界まで部屋の隅に逃げるが、

手はいつまでも追ってくる。


「や、やめろってッ!」


とうとう追い詰められてしまった、

握手の形をした手が、

徐々に私の胸の辺りにまで来てしまった。


「お前は……まぁ……来世は、()()()()()

それでも、生きることは素晴らしいんだ、

祝福を受け取れ」


「くっ……」



最後まで私は抵抗したが、

テンシは、私の胸に手を付けた。


「幸せになれよ」


「…」






“ブシャッ”







































世界観は『ガラージュ』や現実の方の『九龍城塞』などに影響を受けていて、基本名詞は漢字ですが、

なんだか厨二病っぽくなってしまったので、

もうちょい考えものだなって思います。



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