咲久と蒼空
ボールを蹴ってみた。それは、少し斜めになりながらも綺麗に転がった。不思議な感覚がした。
それが、初めての出会いだった。
「ピピピ、ピピピ、ピピピ…」
ありきたりなアラームの音が俺の目を覚ます。
時計の針は、いつもと同じ時間を指していた。
倉空、来ないな…
あいつが普段くる時間から10分は経ったが、一向に来る気配はない。
まぁ、どうせ寝坊だろうけど…
しばらくすると、おそらく俺の予想通り寝坊したであろう倉空が慌てて登校してきた。
「あれ?倉空じゃん。あまりにも遅いから学校来ないかと思った」
面白半分でつついてみる。
「なわけないだろ。たまには颯爽と登場するヒーローにでもなろうかと」
倉空らしいけど、明らかに慌ててるヒーローはゴメンだ。
「どーせ寝坊だろ?どう見ても慌てて来たようにしか見えねぇよ(笑)」
「……」
「おーい、返答がないぞー。まぁ、ギリギリ間に合ってよかったな笑」
「ふっ。持ってるやつは違うんだよ」
「はいはい、で持ってるやつくん、今日一限体育だけど、着替えなくて大丈夫そ?」
「へ?」
だろうとは思った。
「え、今日一限体育?待って待って、ちょっと落ち着こう、な、咲久くん!」
「お前が落ち着け」
蒼空がちらりとこちらを見た。
俺が体操服を着ていることにやっと気づいたらしい。
始業まであと2分、間に合うんだか……
「倉空、部活行こーぜ」
「行く行くー」
蒼空とは、ここ峰光高校の部活で出会った。
体験のパス練のとき、ペアになった相手。
あの世界が合わないことに気づいて、全部蹴ってここに来た俺にとって、蒼空は希望そのものだった。
上手く言えねぇけど、蒼空のサッカーが輝いて見えた。
特別サッカーが上手いわけでもなかったのに、そのパス全てに俺は魅了された。
サッカーを初めて暖かいと思った。
競技を離れることも考えていた俺にとって、蒼空はサッカーの恩人になった。
「倉空、パス練しよーぜ」
多分、蒼空はずっと変わらず、大好きなサッカーをやっている。
「今行くー」
蒼空が小走りで駆けて来る。
きっとあのサッカーに救われた人もたくさんいて、
サッカー少年だった蒼空は、きっと、ずっと変わらずサッカー少年をしていくんだろう。




