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【凪編】41:xx16年5月21日/5月22日

『それ』の最初は、ヴァイオリンのレッスンの最中だった。


高校に入学して早くも一か月が過ぎていた。

中学とは異なり、学校は家から電車を使って約1時間かかる場所にある。

そのため平日にヴァイオリン教室に通うことは難しくなり

土曜日のレッスン時間を90分として週に一回になった。


今日は中間テスト明け、つまり二週間ぶりのレッスンである。

私立ステラ・マリス女学院へ、特待生での入学を果たした乃亜は

基本的には試験にて学年10位以内をキープする必要がある。

それを下回ったからといっていきなり退学などということこそないが

学費免除という大きな恩恵を受けているのだから中間試験試験ひとつとっても必死である。

何とか5位に入り一安心しての今日であった。


そんな中だ。

今日弾いているのは次のコンクールに向けた課題曲、

【J.S.バッハ:「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第1番 ト短調」Ⅰアダージョ】である。

いつもと同じように弾いていたつもりだが、水野の表情になにか陰りが差した。

弾き終わったところで、普段であれば即講評に入ってくれるのだが、

彼女はしばし黙したままだった。


 「……先生?」

 「ああ、いえ、ごめんなさいね」


先生は少し考え、棚にいくつもしまわれている楽譜をあさりだした。

そしてその中から一曲を選んで差し出した。


 「乃亜さん、ちょっとこれ、弾いてみてくれる?」

 「え、あ、はい」


差し出されたのは以前、ビブラートの練習として取り組んでいた曲、

【亡き王女のためのパヴァーヌ】である。

なぜ今これを弾くように、と言われているのか分からないが

水野が意味のないことをさせるとは思えず、素直に従う。


譜面台に楽譜を乗せる。指先の動きについては問題ない。

美しい歌を歌い上げるように、切ない思い、愛の尊さ、そんなような思いを、

そういった感情を、ヴァイオリンへと込めていく。


やがて弾き終わったが、水野の表情から険しさは取れない。

なにか不安になって来る中、彼女は口元に手を当てたまま言った。


 「……乃亜さんはこないだ高校生になったばかりよね?」

 「はい、そうです」

 「うん、なら一時的なものだと思うわ」

 「どういう、ことでしょうか……?」


怪訝な様子で乃亜が尋ねるも、

水野は明るく笑みを浮かべて首を振った。


 「なんだかちょっと普段を音色が違う気がするの。

  いつもはもっと伸びやかで、曲にのって大きな風が吹きつけられるみたいな。

  でも、それがあまり感じられなくて」

 「……風、ですか?」

 「ああ、もちろんあくまで比喩よ。

  でも、割とこの時期にはあるのよ。

  進学とか、就職とか、そういう環境が変わるタイミングだもの」


確かに乃亜は先月高校に進学した。

全く新しい学校で、それも私立。ほぼ全員がお互いに初めましての状況だ。

場所も今まで通っていた中学のように徒歩ではなく、

電車を通じて通う必要があり、そういう意味でも環境は大きく変わったと言える。


 「だから一時的なものだと思うの。

  環境に慣れてきたら、元に戻ると思うし、心配しないでいいわ」

 「……、はい、分かりました」

 「心当たり、ありそうね?」

 「はい……。通う場所も全然違うのと、授業も色々カリキュラムが増えて……」

 「ふふ、学生らしい悩みだわ。

  そういうのもあるし、まぁ、いずれ戻るから大丈夫」


水野に勧められ、乃亜はそれに素直にうなずいた。

だが、なにか自分の中でも違和感を感じていたことは口に出せなかった。

おそらくそういうものなのだろうという思いがあったからだ。


ほんのわずかな腑に落ちなさを感じながら、乃亜は自宅へと帰った。


 「ただいま帰りました」

 「おかえり」


廊下の向こう側から聞こえる声に、乃亜は少し小走りで向かう。

夕飯の準備してくれていた兄は乃亜の姿を見ていつものように笑顔で迎えてくれた。


 「手伝います。着替えてきますね」

 「休んでいてもいいんだぞ」

 「私がしたいんです」

 「ふ、分かった。待ってるから早く来い」

 「はい」


兄と一緒に料理をする時間は乃亜にとって楽しい時間のひとつだ。

そうやすやすと手放したくはない。


着替えを済ませて兄の元に向かい、並んで料理を進めていく。

今日は和食らしく、焼き魚は鰆、ほうれん草のお浸し、蓮根と人参のきんぴら、だし巻き。

シンプルだがこういった和食は飽きがこず美味しい。

共に暮らし始めて知ったが兄妹の味覚は似ているらしく、共に和食を好むらしい。

洋食も中華ももちろん食卓に上がるが、どちらかというと和食のほうが頻度が高い。


手早くそれらをこしらえて食卓に着き、食事を始めた。

しめじと豆腐の味噌汁から口に運ぶと、すっと身体にしみわたる心地だった。


 「明日はましろと出かけると言ってたよな」

 「はい。いつものように、隣駅です」

 「俺も少し大学に行ってくるから、昼は用意しないでいい」


それに乃亜は首を傾げた。

静は今年から修士課程に進み、忙しくはしているが日曜は休日だったはずだ。


 「前にも言ったが、今年から教授の研究の本格的な手伝いに入る。

  まぁ、助手に近いが、その関連でな」

 「ああ……大変ですね」

 「楽な話じゃないのは確かだが、それでもだいぶ慣れた」


静はどこか楽しそうだった。

3月に無事に大学を早期卒業し、今年からは修士課程に入った。

自身の研究の傍ら、加えて講義の補佐、手伝いを行うティーチングアシスタントを務め

近々懇意にしている教授の手がけるプロジェクトにも入るらしい。

細かいことは乃亜には分からないが、本当に優秀な兄であるということは分かる。

それでも多忙さに良い意味で慣れたらしく、

静なりにうまくバランスを取り、ほどよく休息もとれているようなので

乃亜としては安心してみている。


 「ヴァイオリンの調子はどうだ?」

 「あ、はい。特に悪くはないんですが……」

 「が?珍しいな」

 「私にはよくわからないんですが、少し調子がよくないようだと……」

 「なに?」


食事の手がとまる。

静は怪訝そうに乃亜の顔を覗き込んだ。


 「なにかあったのか?」

 「いえ、私自身は特には……。

  ただ、先生曰く、環境の変化によるものだろうと」

 「ああ……」


それに納得したらしい。

実際乃亜もそれしか思い当たらないのだから追及されても困ってしまう。

静が納得した様子を見せ、乃亜はほっと息を吐いて食事を再開した。


 「なので次のレッスンは二週間後だそうです。

  少しゆっくりしたほうがいいとおっしゃって」

 「成程。まぁ、そういう時期といえばそうだな。

  お前の場合、生活圏も拡大したようなものだ」

 「そうですね。電車通学にもようやく慣れてきましたけど」


幸い電車の経路は通勤などで混む方角とは逆だ。

朝は空いており、座れずとも満員電車などではなく、

余裕をもっていられるのは本当にありがたい。


 「まぁ、一時的なものならさして気にする必要もないだろうが、

  体調には十分気をつけろ。来月、コンクールの地区予選もあるんだろ」

 「はい。レッスンは二週間後ですが、

  その間は家で練習に勤しむことにします」

 「ああ、程々に頑張れ。応援している」

 「はい」


そのあとは学校のことなどを話しながら食事を終えた。

食器などの片づけを済ませて、兄と夜の団らんを過ごし、

入浴なども終えて自室に戻った。


時刻は21:30。

まだ眠気もないため電子ヴァイオリンで少しおさらいすることにした。

課題曲を奏でていく中、先生に指摘されたことをふと思いだした。


   " いつもはもっと伸びやかで、曲にのって大きな風が吹きつけられるみたいな "


どういうものを言っているのか、乃亜にはまだよくわからない。

もしかしたら弓の動きの問題だろうか。

そう考えて幾度か弾き方を変えながら練習を続ける。

この曲はどこか荘厳で、厳格。けれどどこか深い部分に温かみを感じる。

そんなようなイメージを乗せるのがいいのだろうか。

等と繰り返し練習を進めていると、瞬く間に時間が過ぎる。

0:00に鳴るようタイマーをセットしていた端末が震えた。


ヴァイオリンを立てかけて、端末を取り上げる。

アラームを消すと、その通知面に、メッセージが表示された。


 「!煉矢さん……?」


新着メッセージの差出人は彼の名前だった。

二か月前にアメリカで別れたきりのかの人の名前に、

なにか胸の奥の方に燻ったものは消えた。

弓も立てかけ、ベッドに腰かけた。

少しどきどきと感じながらメッセージを開く。


 『5月30日の便で帰国が決まった。

  帰国してしばらくは少し慌ただしいが、

  落ち着いたら食事でもいかないか?』


乃亜はそのメッセージに大きく心音が高鳴った。

つい二か月ほど前の出来事は忘れられない。

あちらの大学のイベントに招待され、

素敵な人たちに囲まれながらステージに立った。

その中で彼は常に傍にいてくれて、気遣ってくれた。

自分でも意識していなかった疲労を察して町に連れ出してくれた。

海岸沿いを歩き、食事をして、買い物をし、そして、大切な言葉をくれた。

それだけではない。

過去のことを思い出すようなことに遭遇したとき、

そのせいか身体が膠着して頭が真っ白になった。

そんな自分を抱きしめて、包み込んでくれた。


その時のことを思い出すと、今でも胸があたたかくなり、

彼への思いが溢れて仕方なくなる。

乃亜は端末を抱えたまま立ち上がり、棚に飾った写真立てを見た。

楽しく笑いながらステージに立つ自分の姿。

これもまた自分だと言ってくれた彼の言葉は忘れられない。

こんな風にヴァイオリンを奏でたいと強く思うようになったのだ。


そしてその横のアクセサリーボード。

いくつか飾ってあるペンダントの中のひとつ、ラリマーのペンダントをそっと持った。

きゅっと胸に抱き、返信しなければ、と端末に目を向ける。


帰国の日程を教えてくれただけでも嬉しい。

それだけではなく、食事の誘いまでしてくれた。

二か月前の出来事で、少し距離が縮まったと感じていたのは、

自分ひとりの思い上がりではなかったようでうれしい。


 『帰国の日を教えてくれて、ありがとうございます。

  お誘いも、とても嬉しいです。

  落ち着いたら、ぜひ、行きたいです』


ややあって既読がついた。


 『まだ起きていたのか。そっちは日付が変わったころだろう?』

 『ヴァイオリンの練習をしていたので』

 『あまり無理をするなよ。

  6月中旬から下旬になっても問題ないか?』

 『6月の中旬にコンクールの地区予選があるので、

  むしろ、そのあとの方がありがたいです』

 『なら、落ち着いた頃に連絡する。

  コンクール、頑張ってくれ。

  あのステージをやりぬいたお前なら、きっとなにも問題ない』

 『ありがとうございます。頑張ります』

 『今度は電話する』


とたんに顔に熱がこもるのを感じた。

嬉しい、というか、焦る。

なんだか本当に、急速に距離が縮まったような気がする。


 「……っ、どう、しよう……」


とはいえ返信しないわけにもいかない。

乃亜は思考をフルスピードで回し、返信を打った。


 『楽しみにしています』


どうかこれで間違っていませんように。

顔に熱を感じながら、乃亜はベッドの上に倒れるように横になり、

見間違いかもという思いを抱きながら再度端末のメッセージを確認した。


だが嬉しいことに、見間違いではなく、

乃亜は頬の熱をどうすることもできず、寝付くまでにひどく時間がかかってしまった。



翌日。

日曜日ということもあり、乃亜は隣駅でましろと買い物に出ていた。

といっても乃亜には特に買いたいものはなく、

二人で待ち合わせをして、カフェで時間をつぶしたり、

ウィンドウショッピングをするのがせいぜいだ。

あまり変わり映えはなくとも、二人にとっては楽しい時間。


昼過ぎに合流し、二人の行きつけのカフェに入る。

白と水色が基調のカフェで、半分はオープンテラスとなっており、

ゆっくりとおしゃべりをするにはもってこいである。

乃亜は昨日の夜にあった出来事を相談した。


 「食事に誘われた?!」

 「は、はい……」


カフェの一角でレモンとヨーグルトのフラペチーノを片手に、

ましろが目を見開いて繰り返した。

乃亜は抹茶のフラペチーノを両手で包みながら、頬を赤く染めている。


 「いやもう、それどう考えてもデートのお誘いでしょ」

 「で、でも、……その、ほら、イベントのあとですし……」

 「思い出話するためにわざわざ誘う?」

 「う……」


さすがにそれを肯定するほど天然でもない。

乃亜はいたたまれずにドリンクをするすると飲む。

ほんのりと苦味のある冷たいドリンクは火照った頬にちょうど良い。

ましろは隣の席でニヤニヤと笑ってみている。


 「そもそも帰国の日を伝えたうえで、そんなさぁ……。

  向こうでのことはあんまり詳細聞いてないけど、本当、なにがあったの」

 「え、と……いえ、……」


アメリカであったことは一言にはとてもではないが言い尽くせない。

静やましろには勿論、ある程度は土産話として話をしていたが、

あまり詳細を話すとアヴァの件など、

少々ましろにも静にも心配をかける内容に触れてしまう。

そのため、イベントがどんな内容であったかとか、

軽く地元を観光させてもらったこと、

向こうで知り合った友人のことを当たり障りなく話していただけだ。


なにをどう話したものかと瞳をぐるりと回す乃亜に

ましろはふっと笑うように息を吐いた。


 「まぁ、向こうでもデートしてたみたいだし、

  色々気遣ってくれてたんでしょ?」

 「それは、はい……」

 「その流れで距離が縮まったんだろうけどね。

  ともかく、良かったじゃない。

  きっと、煉矢さんも乃亜のこと気にしてるんだよ」

 「えっ、いえ、さすがにそこまで……っ」

 「いやそこは前向きに捉えときなよ」


頬を赤くして頷こうとしない乃亜に、ましろは肩をすくめた。


乃亜がアメリカから戻ってから、彼女の雰囲気が変わったことにましろは気づいている。

乃亜からの土産話からはその理由は分からなかったが、

以前はあまり感じられなかった前向きさのようなものを感じた。


一人での渡航、海外での生活、現地の人々との交流、

大学のイベントという舞台での経験、

それだけでも成長するには大きな要素だと思うが、

ことあるごとに、いろんな相談に乗ってくれていたと話していた煉矢との日々。

そこに、何か大きなものを乗り越えるきっかけがあったのだと思っている。


しかし、それでもやはり恋というものはひとを臆病にするらしい。

隣で真っ赤になりながら、両手で持ったカップを軽くへこませたりと弄んでいる乃亜。

このような調子で、もう間もなく帰国する彼とどのように過ごせるのだろうか。


 「ところで戻ってくるのはもうすぐだけど、時間が出来るのは先なんだっけ」

 「え、あ、はい、そうらしいです。

  もともとこちらで使っていたマンションは解約したそうで……。

  しばらくマンスリーマンションでしのぎながら、

  新しい賃貸を探すと、おっしゃってましたから……」

 「大学でも手続きと言うか色々ありそうだし、確かにすぐには無理だろうね」

 「はい……。でも、私も、6月の半ばにコンクールの地区予選があるので」

 「なんか結構大きいコンクールって言ってたね」


今度挑戦するコンクールは、以前挑戦したものとは大きく異なる。

規模も大きいもので小中高と一般、それぞれ年齢ごとに分けられており、

また、ヴァイオリンだけではない、ピアノやフルート、声楽、と4つの部門が設けられている。

募集規模も全国ということもあり、開催期間も長い。

乃亜の挑戦するヴァイオリン部門の高校生の部は、まず6月の中旬に地区予選がある。

それに通れば次は本予選が8月、さらに進めば、10月に本選という流れ。

最初話を聞いたときは驚き身がすくむ思いだったが、

それでも挑戦しようと思ったのは、やはりアメリカでの出来事や

煉矢から言われた言葉に背中を押されたことが大きい。


 「はい。腕試しのようなものですが……」

 「腕試しか……ふふ、乃亜、本当にアメリカに行って良かったみたいだ」

 「……そう、かもしれませんね」


そう頬の赤みが消えないままに微笑む乃亜の表情は明るい。

以前のような不安が常にあるような雰囲気はない。

ましろはそれにどこか安堵を覚えて、溶けかけたフラペチーノを啜った。


 「ましろもいくらか忙しくなるんでしょう?」

 「うん?ああ、そうだね。部活の大会があるから」


ましろはその後も順調に回復を続け、今年から道着を着ての稽古まで許可されたらしい。

昨年から素振りや軽いトレーニングまでできるようにはなっていたが、

更に一段階運動が許可されるようになり、

ましろが嬉々として連絡してきたのは4月に入ってからだ。

もっともいきなり通常通りの稽古、というわけではないらしく

主に道着を着ての稽古は調整が効く実家の道場での話。

学校では体育の授業はほぼ問題ないらしいが、部活ともなれば難しい。

学校や家族、病院とも相談して、今年からマネージャーとして入部を果たしたらしかった。

ましろの通う鈴乃宮高校は剣道の強豪だ。

元々それを目指しての入学であったから、どうしても諦めきれないと話していた。


 「6月に都大会があるし、勝ち進めば8月に全国大会だしね。

  ウチは去年全国いってるから、シードはあるけど、油断はできないし」

 「そうなると、しばらくお互い忙しいですね」

 「だねぇ。

  ああ、でも、ウチの監督、休みはしっかり入れる人だから、

  毎日毎日時間がないってわけじゃないんだよ。

  あ、そうだ、煉矢さんの帰国祝いでもする?」

 「え?」


目を丸くしてましろを見ると、彼女はにこりと笑っていた。

冗談の類ではないようだ。


 「私、なんやかんや、煉矢さんと会ったことないんだよね。

  静や乃亜から話は聞いてるけど……たぶん向こうもそうだと思うんだけどさ」

 「ああ……そうですね、確かに……」


確かによく考えると二人は面識がない。

自分も静も、それぞれのことは話しているため、

なんだかすでに知り合いのような気がしていたが

冷静に考えると繋がりはまだできていないのだ。


 「考えればそうなんですけど、なんだか、もう既に知り合いのような気がしていました……」

 「うん。私も正直そうなんだけどさ。

  だから会ってみたいんだよね。

  向こうが落ち着いたら、静にも相談して、4人で食事とか」

 「いいですね、楽しそうです」

 「乃亜の彼氏候補だしねぇ」

 「っ、ちょ、ま、ましろ、それは……っ」

 

ましろはくつくつと笑い、乃亜はそれに落ち着いてきていた頬がまた染まる。

最後のはともかく、それでも四人で食事など、乃亜にとっては楽しみでしかない話だ。


静は多忙ながらも充実して過ごし、

ましろはずっと目指していた剣道復帰に手をかけ、

長く離れていた煉矢は帰国目前。

なにより乃亜も、ヴァイオリンに対して、自身に対して、

少しだけ前を向けるように感じられていた。

乃亜にとって、ここ数年でもっとも充足しているような日々だ。


少なくとも、この時は確かに、そう思っていた。


新章開始。


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★毎週木曜11:30・日曜19:00頃更新予定★

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★アルファポリスでも連載中★

https://www.alphapolis.co.jp/novel/598640359/12970664

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