表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/107

第九十七話 湖畔

 どこに繋がる鍵なのか、何のために作られたものなのか――――現時点では一切分からない。

 しかしその輝きには、物語を隠しているような艶があるように思えた。


 秘密を隠し持った少女のような、ミステリアスな魅力を感じる。


「……可能性が一番高いのは、屋敷内のどこかで使えるってパターンだけど……捜索すべき範囲があまりにも広すぎるな」


 鍵を摘まんで検分するように眺める彼は、そう独り言ちる。


「しかもこの建物内の鍵じゃない可能性まであるもんね……」

「正直、一部屋一部屋鍵を挿して回るのは避けた、い――――」


 彼が言葉を止めたのは、鍵が仄かな光を纏い始めたからだった。

 炎を連想させるような、揺らめく光が私たちを照らし出す。


 それに呼応して、建物が溶けるように微小の粒へと分解されていく。館全体を包んでいた薄闇は晴れ渡り――――気がつけば眼前に湖が現れていた。


 清浄極まる湖畔で、一人の少女と龍が向き合っている。少女は龍に手を伸ばし、その頭部に触れる。龍は目を細めて少女に寄り添う。


 神話の一幕のような神秘的な光景だった。二者を照らす柔らかな陽光はどこまでも温かく、優雅に空間を彩っている。


 少女の口元が微かに動く。その声を聞き取ることはできない。


 龍が頭を持ち上げ、黄金の瞳を少女に向けた。その瞬間、莫大な魔力が周囲に渦巻く。龍の頭上には巨大な魔方陣が現出し、世界を変革せんと動き始める。


 歌が聞こえた。今にも壊れそうなほど儚い声が、少女の喉から音楽を紡いでいる。触れてしまえば砕け散り、空に消えゆきそうな歌声だった。


 そこには祈りがあった。森を揺らすほどの激しい祈りが込められていた。世界の過ちを突きつけるような鋭さを持ちながらも、どこまでも清廉な願い。


 龍は瞑目し、頭上の魔方陣を眺めている。恐らく術式を維持しているのは龍の方だろう。少女はそこに新たな願いを刻み込んでいくだけだ。


 魔力の供給を受けた魔方陣が、淡い光を帯びていく。少女の歌が世界に響く度、魔方陣には新たな紋章が浮かび上がる。


 騒々しい風も、哮る兵士の声も、生命の輝きを充溢させる二つの魂によってかき消される。少女の歌が結ばれると、魔方陣の輝きが一層激しくなった。天高く迸った魔力が、流れ星のように世界に降り注いでいく。



 これはきっと、全ての始まり。

 世界の核心に深く根ざした――――魔法の物語のプロローグだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆☆☆☆☆から、作品の率直な評価をよろしくお願い致します。 また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると大変励みになります。 script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ