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第九十三話 王女の独白

 不思議な人だと思った。


 私がエゴに身を任せて召喚した賢者の彼は、困惑を欠片も見せず魔王討伐の要請に応じてくれた。しかも、私が言っていないような王国の事情まで見透かした上で、その計画に賛同してくれたのだ。


 この国では類を見ないであろう神秘的な黒髪に、夜空のように澄み渡る瞳が目を引いた。私は自然と彼――――ユキヤに信頼を寄せるようになっていった。ごく短時間でこれほど心を開ける相手に出逢ったのは人生で初めてかもしれない。


 そして――――好感を抱けば抱くほど、彼に苛烈な運命を背負わせてしまったことへの後悔が燃え上がってくる。


 この国を守りたい。民を守りたい。


 そんな大義名分があっても、私が利己的な判断で彼をこの世界に招請してしまったことに変わりはない。魔物と対峙するような過酷な状況に身を置く必要性など――――彼の側には微塵もなかったのだから。

 私は彼を守らなければならない。


 大した魔法も剣術も身につけていないくせに、何を言っているんだと思われるかもしれないが、私のこの思いに偽りはない。彼に苦しみを背負わせてしまった以上、戦い以外の場面で彼に負担をかけるわけにはいかない。


 だから――――自分でも突飛な発想だと思うけれど、彼と家族になろうと言ったのだ。何気ないことで笑い合えるような関係になりたいと口にしたのだ。


 正しい家族の形が私に構築できるのかは分からない。家族という空間・概念を意識して生きたことがないからだ。


 王族なんてそんなものだろう。歴史を遡れば、血を分けた兄弟で王位を争ったこともあるらしい。ただ似たような血が流れているだけ。お父様も――――私のことをどう思っているのかは分からなかった。


 私は、愛というものを直視するのを避けて生きてきたのかもしれない。不定形で朧気で、手中にあるかと思えば指の隙間から零れていくような――――そんなもの。


 彼との関わりの中で、そんな儚い結晶を見つけることができたなら。

 私の空っぽな心にも、光が灯るのかもしれない。


 お伽噺の王子様に恋い焦がれる少女のようだ。自分でもそう思う。夢の中で見た絶景を求めて彷徨っているみたいな気分だ。


 あるはずのないものを、あるはずのない場所で。

 それが私の人生を貫く一種の観念であるような気もした。


 彷徨い続けて――――迷い続けて。


 掴めるものはあるのだろうか。

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