第九話 古代魔法
遺跡。
目の前の建物をそう形容するのには、若干の問題があるように思えた。
遺跡と聞けば、多かれ少なかれ朽ちた建物や雰囲気を想像しがちだが―――この建物にそのような様子は全くない。
硬質な黒の石材には重い艶が見える。
崩れそうな印象はどこにも見受けられない。
入れる場所があるとすればやはり―――聖紋の浮かぶ正面の扉だろう。
「……じゃあ、行くか」
「ええ」
左手の甲を扉にかざす。
瞬間、手の甲の紋章がまばゆく光り始める。黄金色の色彩を放っていた紋章は、少しずつ黒色を帯びていく。
十秒が経過した頃、扉の聖紋が鈍く輝いて消滅した。
地下へと続く階段が出現する。
手の甲を見ると、聖紋は元の黄金色に戻っていた。
「……進もう、リーシャ」
光球を杖の先に浮かべ、彼女の先を歩き始める。
二人の足音だけがこつ、こつと鳴る。
何が起きるか分からない。
目標が明確だった魔王討伐よりもずっと―――得体の知れない恐怖感を覚えている。
「なんだ……これ?」
階段を下り終えた俺たちの目に飛び込んできたのは―――階層中央の円を取り囲む黒石の塔だった。
「祭壇に見えるけど……」
リーシャの呟きに、こくりと頷く。
祭壇。
円の内部には魔方陣が刻み込まれている。
見たことのない魔法だ。
「リーシャ、この魔法に見覚えあるか?」
「……いえ、ないわ。そもそも―――基盤から現代魔法じゃないもの」
「そう、か……」
その多くが秘されたまま忘れ去られたという、古代魔術研究の結晶―――古代魔法。
魔方陣が根本から異なることからも分かるように、効果も発動条件も現代魔法とは異なる。特に発動条件については、”必要な魔力を注ぎ込む”がほぼ全てのトリガーとなっている現代魔法に対し、古代魔法ではその条件に制限がない。
だから、見つけたところで起動できない可能性も十分にあるわけだが……。
祭壇の周囲を歩き回ってみても、スイッチになりそうな機構は見当たらなかった。微量の魔力を流してみても反応しない。
「……これは起動できないかもな」
黒石の塔を調べ終え、円の内部に足を踏み入れたその時だった。
「―――ユキヤっ!」
塔が青白く発光し始める。
各塔の先端に仄白い光球が形成される。
俺の方に駆け寄ってきたリーシャを抱え、祭壇から飛び出す。
発光は収まらない。
――遺跡から脱出するだけの十分な時間が確保できない。
光球から光があふれ出し、視界を――そして世界を塗りつぶした。




