第八十五話 信頼
「どうしたのユキヤ……と、ガイシュ様?」
扉から姿を覗かせたルージュは、並んで立つ俺とガイシュ様を見て目を丸くした。
初夏の空のような流麗な青髪が揺れるのを見て、喉の奥が熱くなるのを感じる。胸でくすぶる感情が喉を焦がしているのだ。
一度目を閉じて想念の熱を冷ます。声が震えてしまわないように。
「ルージュ。夜分遅くにごめん。ちょっと一緒に来てほしい場所があってね」
「…………ねぇ、ユキヤ?」
「どうした?」
「雰囲気、いつもと違う気がするんだけど……」
精一杯取り繕ったつもりだったんだけどな……。
心配をかけないよう、中身のない返答をしようとした俺を手で止めて――――ルージュは部屋から出てくる。
「……いいわ。訊かないでおく」
ほっとしたのも束の間、ルージュが手を伸ばして俺の額に触れた。
「なに、どうした?」
「ん~…………熱はなさそうね……」
「子供扱いやめろ……」
その手の美しい冷たさに、思考が鎮まっていくのを感じる。
「……では、二人とも。付いてきてくれ」
ガイシュ様の穏やかな声が廊下に響く。
一歩、また一歩と進む度に――――自分の存在が不確かになっていくような感覚に襲われる。脳内にノイズが侵入してきているような違和感が、影のように付き纏ってくる。
ルージュも異様な雰囲気を感じ取っているようで、怪訝そうに眉を動かした。
「ユキヤ」
「ん?」
「手、繋ぎましょ?」
向けられた微笑が――――どうしようもなくリーシャを想起させる。
その言葉も。声音も。
「――――ああ、そうしようか」
こんなところで怖じ気づいている訳には行かない。
俺は彼女たちに託されたのだから。
広間から階段の脇を抜けて進み続ける。
……罪悪の回廊での断片的な記憶と同じ道。同じ空気感。
前を歩くガイシュ様の背中すら霞むほどの暗さの中で、左手の温もりだけが確かな道標になっていた。
「……ここだ」
絶望を煮詰めたような場所。
そして――――俺とガイシュ様の罪が眠る場所。
女神の宿る地下室は俺たちをじっと待っている。
「そこで待っていてくれ。私が先に入る」
階段を下りて扉を開こうとするガイシュ様を見つめていると――――。
「――――後は任せたぞ、ユキヤ」
「……ぇ」
扉の先から青白い光が湧出し――――賢王の腹部を貫いた。




