第八十三話 運命
「…………え」
『しかし私が魔法を使って燃やしたわけではない。となると――――私に思いつくのは……』
――死者の遺志を継承する。
――それが我らの使命だ。
古の賢者の言葉を思い出す。
『賢者の権能によって継承された”私の炎”が、あの城を焼いた――――ということくらいだ』
「な……そ、れは…………」
失意の底で丘から眺めた、王城を焼く炎。
あれは――――俺が行使した魔法なのか?
『賢者よ。あの炎が何故放たれたのか推測できるか?』
「……全く、できない…………」
『私の炎には浄化をもたらす力がある。となると――――ガイシュの奴が女神の力を制御し損ねたのだろうな……』
「ガイシュ様が……?」
『制御を誤った女神の力は呪いとなって、術者に縁のある人間を滅ぼしに向かう。その呪いを焼き殺すために、私の炎が必要だったのだろう』
「術者に縁のある人間って……王に仕えていた俺、は…………」
『思い当たることはないか? ……アイツは、お前と縁を切ろうとしなかったか?』
国からの永久追放。
ガイシュ様はそこで――――俺との縁を切ったのか……。
『苛烈な運命のただ中に居るようだな、賢者。しかし――――お前が中心だ。此度の運命はお前を中心に巡っている』
「俺、は……どうしたら……」
『縁を切ったと言っても、私の炎で焼き尽くさぬ限り、呪いはいつかお前にたどり着く。そうならずに今お前がここに居るのは――――お前が城に炎を放ったからだ』
つまり。
それは。
『行動をなぞれ。お前がここまで来れたのは何故だ? 何がお前の運命を前に進めた? ……お前には、やるべき事が判っているのだろう』
「――――ファレイヴィス。俺は、お前を……」
殺さないと。
『そうだ。それが正しい選択だ。老い先短いこの命――――お前に託そう。より輝かしい可能性に賭けるのは実に喜ばしいことだ。なに……これほどに面白い運命に一役買うことができるなら、命など安い』
ファレイヴィスは纏っていた加護を消滅させた。
龍自身が死を望んだとき、加護は消滅する――――レスカディアが言っていたことだ。
「ごめん……………………ありがとう、ファレイヴィス」
『望むもの全てを救い出せ。若き賢者』
深く頷き、剣の柄に手をかける。
飾り気のなかったはずの剣は、宝石のような輝きに身を包んでいた。
――――メギア。やっぱり……死ぬ直前に託してくれたんだな……。
華炎龍の顔に笑みが浮かんだ。
華炎龍の喉元に剣が突き刺さる。
柄を支えているのは、俺の右手。
メギア。
罪悪の回廊に俺だけを送ったのは――――俺が華炎龍を殺したからか。
お前はどこまでも正しいよ。
全部俺が背負っていく。
罪業も責任も、運命も。




