第八十話 閑話
イリエスに向かう馬車に揺られながら、延々と続く草原を見渡す。
風に撫でられて音を立てる葉が、宝物を隠すように揺れていた。
「なぁゼクル。お前御者やったことあるのか?」
「田舎出身だからな。馬に乗るのは慣れっこだ」
御者さんにイリエスまで連れて行ってもらおうとしたところ、ゼクルが「馬車さえ借りられれば俺が操縦できるぞ」と言ったのだ。
半信半疑だったが――――この手捌きを見ると判断は正しかったと認めざるを得ない。
あまりにも安定した運転だからなのか、馬車の後部に座っていた女性陣は肩を寄せ合って眠っている。馬車の揺れにも1/f揺らぎってあるんだろうか……。
……まぁ、激動の一日だったもんな。
日は沈み、無数の星が夜空を彩っている。草原には街灯が(当然ながら)ないし、空気が澄んでいるので星々が零れ落ちてきそうなほど綺麗に見える。
「お前も寝ていいぞ? 今日は疲れただろ?」
「まぁ、な……眠気と疲労はだいぶ強いな……」
「異状あったら起こすし、寝ればいいじゃんか」
「うーん……運転手一人だけしか起きてないと退屈にならないか?」
そう言うと、ゼクルは苦笑して言った。
「お前は良い同乗者だよ……でも大丈夫だ。お前も見てたと思うけど、語りかけるような星空が見えるんでな。退屈はしない」
「なるほどね……じゃあお言葉に甘えて寝ようかな……」
数分前から、頭の中に靄がかかったような感覚がする。眠気が脳を侵しているのだろう……。
「ああ、おやすみ」
(馬車でこの呼称が適切なのか判らないが)助手席で楽な姿勢を取る。
目の前には、濃紺の空に響き渡るような星の瞬き。
すぐに意識が朦朧とし始める。
拡散していく意識を馬車に委ねるように手放し、眠りに落ちていく。




