第八話 揺れるポニーテール
「【凍り、貫け】【燃え上がり、吹き飛ばせ】」
同時に展開された五十もの魔法が魔物を蹴散らしていく。
「……強すぎない?」
「魔王を討伐した賢者さんに言われてもお世辞にしか聞こえないけど」
「いや……なんか、リーシャの魔法って洗練されてる感じがするっていうか……」
「……威力じゃ姉様に勝てないから。技術を鍛えるしかなかったの。同時展開とか連続詠唱とか」
これほどの技術を習得するまでに、どれほどの努力が必要だったんだろう。
戦闘中なのにそんなことを考えたくなるほど、彼女の魔法はスマートで美しかった。
「先に行きましょうか」
リーシャは魔物の残骸に目もくれずに歩き始める。
戦闘を考慮してのことだろうか―――いつもは結ばずに垂らしているロングヘアが、今日はポニーテールに結わえられている。
それが歩くたびに左右に揺れて、なんだか無性に可愛かった。
「……どうしたの?」
「ああ、いや……なんでも―――」
そう言いかけた途端、いつかの記憶が蘇る。
『なあユキヤ、お前は喋らな過ぎだ。もっと意思疎通を図れ。特にガールズ相手には……』
『どういう意味?』
『だからな? 俺らはお前ともっと距離を縮めたいわけ。ほれ、些細なことでも話しかけるだろ?』
『……うん。確かに、ゼクルもルージュもシルヴィアも……よく話しかけてくる』
『だろ? ちなみにルージュとシルヴィアが話しかける回数を俺とお前で比べると、お前が俺より五倍多い。これがどういうことかわかるか?』
『……ゼクルの人気がない?』
『俺は多分フラットだっつーの。全く―――二人の将来を案じるばかりだよ俺は』
『なんか今日、ゼクルの発言の意図が掴めないんだけど』
『今日の所はわかんなくていい。でもまあ―――気づいたことは口に出した方がいい。これだけ覚えておいてくれ』
「―――ポニーテールにしてるの、可愛いなって」
俺がそう言うと、リーシャの頬が朱に染まっていく。
「な……なんで急にそんなこと」
「いや、後ろから見てたらポニーテールが揺れてて……」
「詳細に解説しなくてもいい!」
リーシャは、ふいとそっぽを向いて歩き始める。
待ってくれ、と言いながら軽く駆け足で追いかけた。
「ユキヤ」
「なんだ?」
「……ありがと」
消え入るような声で呟かれたその言葉に、頬が緩む。
ゼクル。お前の話、覚えておいてよかったよ。
すぐに見つけるから―――いつものつまんない話でも考えながら待っててくれ。
木々の隙間から、黒の硬質な石材で出来た遺跡が見えた。




