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第七十八話 祈り

 荷物を部屋に取りに行っていたゼクルが帰ってくると、一人の少女が彼の元へ駆けていった。


「お、マリー。仲間が見つけてくれたからさ、旅に出るわ」

「うん……。宿のお部屋、綺麗にして待ってるから……絶対また来てね」



「もちろん。君に会うために」



 二言三言の会話が終わると、ゼクルは少女の頭を優しく撫でる。

 少女のまなじりには涙が浮かんでいるように見えた。


「――――お待たせ。じゃ、行こうぜ」

 主人にお礼を言ってから宿を出る。



「……歩き出したは良いけど、どこに向かうべきなんだ?」

「ルージュの居場所についての手がかりは見つからなかったのか? 城に入ったんだろ?」


 ゼクルが不思議そうな顔をして問いかける。

「姉様からの伝言は見つかったけど、居場所について書かれたものではなかったわ」

「『すぐにゼクルを見つけて』……ってメッセージがあったの」


 リーシャとシルヴィアの答えを受けて、ゼクルが唸る。


「なるほどなぁ……。じゃ、現状手がかりはゼロなのか」

「……なんでゼクルの捜索を優先させたのかを考えれば、何か掴めるのかな」

「俺を探させたのは……なんでなんだろうな。”剛拳”は身体能力を高めるだけだし、特殊な能力を持っているとは言い難いが」


 ゼクルの能力がなければ突破できなさそうな障害も見つかってないしな……。

 ……もしかして。


「”ゼクルを優先させる”理由が見当たらないって事は……”ルージュを後回しにする”ことに意味があるんじゃないか?」

「……悪い、何言ってるかわかんなかった」


「えっと……例えば、ルージュは途方もなく遠くの国に逃げたから、探すならゼクルの方を先にしてほしかったとか……」

 俺の発言を聞いて、リーシャが口を開く。


「”先にゼクルを見つける”ことによって”姉様との合流を最後に回す”ことが目的かもしれないってことよね?」

「ああ。でも……それでも疑問は残る。なんでルージュは自分の行き先を伝えなかったのかってことだ」


 合流に手間と時間がかかる場所に居るのだとしても、その場所の手がかりを残さない理由がない。能動的に行動を起こしているとしたら――――行き先や意図を書き残してもおかしくないのに。


「ルージュはさ――」

 王城が炎に包まれたあの夜。

 豪炎が天を焼かんと猛っていた――――あの夜。


「――自分の意思で行動が出来なかったんじゃないか?」

 俺の言葉を受けてゼクルが頷く。


「確かにそうじゃなけりゃ、自分の行き先を示さない理由がない……」

「ルージュは恐らく、外的な要因で行動を迫られている。だから……自由に動ける俺たちが彼女を見つけなきゃならない。……どんな些細な手がかりでも、見逃しちゃいけない」


 リーシャの瞳を見つめて言う。

「……そうね」


 憂いを帯びた表情に、彼女の祈りが浮かんでいた。


 姉の無事を願う、切なる祈りが。

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