第七十六話 僥倖
芸術と技術の国エレンド。街に立ち入ってみると、その呼称の所以を否応なしに理解させられる。
家々を飾り立てる多様な色彩に、住民の自由なファッション。アイデンティティを存分に外界へ発揮しようとする心の在りようが、芸術の真髄を思わせる。
……で。
本当に俺はこの左右を挟まれた、七五三みたいなスタイルでゼクルを探さないといけないのか?
リーシャの手から抜け出そうと左手を動かす。
「人の往来が激しくなっているから、あの辺りがこの街の中心部でしょうね」
「そ、うみたい……だな……」
手を動かす度に、リーシャの細く滑らかな指が俺の手に絡んでいく。
これはまずい。恋人繋ぎに近づいてきている気がする。
……おとなしく諦めるしかない。
しかし俺にはまだ右手が残っている。
へっへっへ……。抜け出してやるぜ……。
「随分活気があるね。国の中でも結構発展した都市なんじゃない?」
「そ、うみたい……だな……」
手を動かそうとした瞬間――――シルヴィアの心地良い冷たさを持つ指が、俺の指の隙間に入り込んでくる。
はい。詰みました。投了確定。
七五三スタイル野郎から”美少女二人と恋人繋ぎをして街を練り歩く七五三スタイル野郎”に進化しましたねこれは。道行く人の視線が気になるところです。
住宅の並ぶ道を進んでいくと、種々の店が軒を連ねる通りに出た。
「人の往来が集中しているのはこの辺りだろうな……」
「お店の人に訊いてみようか?」
ゼクルの居場所につながる情報が得られるといいなと思いながら、お店に向けて歩いて行くと。
「あッ! 別嬪さん達! ちょっと待ってくれるか?」
……まあ、この二人に優る美人はちょっとお目にかかったことがないし、俺たちのことを呼んでいるのだろう。
っていうか俺のこと見えてます?
二人はかなり眩しいですけど一応男もいるんで……。
などと適当なことを考えつつ、新鮮で美味しそうな野菜の並んだ店の前に立つと、店主は紙切れを取り出した。
「修道服で金の長髪……。青髪の子は居ないが……緑の髪のエルフ……間違いない」
「私たちのことをご存じなんですか?」
リーシャが店主に向けて訊ねる。
「いや、人捜しを頼まれていてね。君たちを見かけたら伝えるように言われたんだ」
「……それってもしかして、筋骨隆々の長身男でした?」
あとくだらない冗談が好きな。
「そうそう! ゼクルさん! あそこのステリアって宿に泊まっているらしいから、彼に会いに行ってあげてほしい」
二人と頷き合う。
「ありがとうございます店主さん。じゃあ、向かいましょうか?」
リーシャが純美な笑みで店主にお礼を述べる。
望外に早く手がかりを得ることが出来たな。僥倖。
でも早すぎて繋がれた手がそのままなんですけど……。




