第七十四話 ~剛拳視点~
「……あ~。そうだ、思い出した」
俺は鞄の中を探り、袋を取り出す。
「これで多分、あの男が居なくても経営は回ると思うんだが……」
「……え、ちょっとゼクルさん。これ……全部金貨……?」
「ん? そうだと思うけど」
「本物?」
「本物だよ。偽金を作る技術なんか持ってねえ……じゃ、今日の仕事行ってくるわ」
俺がそう言ってマリーから離れようとすると。
「ちょっと! こんなお金受け取れないって!」
「宿の前で喧嘩みたいなことしちゃったからな。お詫びとして受け取ってくれ」
「だってこれ……! 宿泊費にしたら二十年分くらいあるよ……?」
そんなに受け取れないよ、とマリーは袋を突き返してこようとする。
「……ん-。じゃあ今俺が泊まってる部屋、二十年間貸し切りってことで。できるか?」
「え? いや、できるけど……」
「この街に帰ってくる度に泊まりに来るからさ。予約代ってことで。な?」
なおもマリーは渋っていたが、俺が退かないのを見て取って袋をしまった。
「じゃあ、お父さんにも伝えとく。あの部屋は二十年間ゼクルさんのものだって」
「おう。よろしく~」
マリーが宿に戻るのを見届けてから、店の並ぶ通りに向けて歩き出す。
困ってる人はいませんか~っと。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
三軒目の店の手伝いを終えた頃だった。
聞き慣れない音が鼓膜を揺らした。
大空を翼が切って進むような、そんな音。
「なぁ、おっちゃん。なんか変な音しないか?」
「ん? ……いやぁ~。儂には聞こえんな」
「そう? なんだろうな……」
店から出て空を見る。快晴だから鳥でも居ればすぐに分かると思うんだが……。
「………………ん?」
青空を背景にして飛ぶ物体が見える。
目を凝らす。”剛拳”によって強化された身体能力には五感の精度も含まれるから、途方もなく遠くにあるアレも見えるはず……。
「アレ絶対ユキヤだろ……」
俺の見間違いでなければ、大空を羽ばたいているアレは龍だ。
一直線にエレンド王国に向けて飛んできているから、明確な目的があるのだろう。
まあ……恐らく俺を探しに来たのだ。
「すげぇな……あの城に入れたのか……って」
城の炎が根こそぎ消滅している。
……これでほぼ確定だ。
アイツらは城に入って俺の手紙に気づき、エレンドに向かって飛んできている。そういうことだろう。
「……いや、龍の背に乗ってるってどういうことだよ」




