第七十一話 ~剛拳視点~
夜になるまでに三軒の店の手伝いをした。
「今日も働いたなぁ……」
イリエスを出発してこの街に来てからずっと世話になっている宿――――ステリア。
その一階に用意されている酒場のカウンターに座る。
「あ、ゼクルさん! 今日も来たの?」
カウンターの向こうで俺を見つめる少女――――マリー。
マリーはこの宿の主人の娘さんだそうで、宿の切り盛りを手伝っている健気な子だ。
「仕事を頑張ったからな。ご褒美だ」
「商店街の人たちに聞いたけど、無報酬で働いてるんでしょ? お金は大丈夫なの?」
「なんでそんなこと知ってるんだ……」
「買い物に行ったときに『お宅のゼクルさんがねぇ~』って話しかけられたの」
「……泊まってる宿を言ってきた弊害が出てるなぁ」
こと、と音を立ててカウンターに置かれたグラスを呷る。
なんかこの国の酒美味しくないか?
芸術家は酒を好むイメージがあるし、その影響なのかね……。
「えっと……なんだっけ? ああ、お金には困ってないんだよな。色々あって」
「普通の仕事してるようには見えないんだけど」
「慧眼だな。普通の仕事はしてない」
「なんの仕事をしてるの?」
「魔王討伐。もう失職したけど」
俺が大真面目にそう言うと、マリーが吹き出した。
「なにがおかしいんだいマリーさんや」
「ゼクルさんが勇者って似合わない……と思って……ふふ」
真実を嘘と受け取られたところで、少女に笑みをもたらせるなら悔いはない。
言葉は人を楽しませるために使われるべきだ。
ふむ。この台詞は気障すぎるな。
「……もう一杯もらえる?」
「そんなに呑むと身体に悪いよ?」
「心配してくれるのか?」
「それは……うん。ちょっとはね。ほんのちょっと」
……割と心配してくれてそうだな。
「……ならやめておこうか。ジンジャーエールとかある?」
「あるよ。……はい、どうぞ」
喉を流れる炭酸の刺激と鼻を抜ける生姜の匂い。
目を瞑って味わう。
「ねぇ、ゼクルさん」
「どうした?」
「この街にはどれくらい滞在するの?」
「仲間が見つかるまで……かな。もうそろっと来てもおかしくない」
アイツらが王城に入れていたらの話だが……。
「…………そっか」
少女から寂しげな呟きが漏れる。
「旅に出てからも定期的に帰ってくるさ。この街の雰囲気、結構好きだからな」
「どれくらいの頻度で?」
「ん? う~ん……月一くらいかなぁ……」
「……そっかっ」
先刻と同じ少女の呟き。
しかしその顔に浮かぶ表情は真反対だった。
……よかった。
グラスを傾け、浮き出ては消えていく泡を飲み下した。




