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第七話 死の足音

「――長老。イリエス王国で生じた事態について情報を整理したいのですが」

「ああ……ここに、各報道誌から得られた情報をまとめておいた」


 長老が机から紙を摘まみ上げ、こちらに示した。


「まず――王国は今なお炎に包まれている。炎の勢力は弱まるばかりか、強まっているようだと報じている新聞もある」

 丘の上で見た光景を思い返す。

 天を焼くような豪炎。

「火災の中心は――お前が直前まで居たであろう王城だ」


 それが告げられた瞬間、背中に冷や汗が伝うのを感じた。

 死は足音もなく忍び寄っていたのだ。

 俺の首元まで。


「イリエスの民は逃げ惑い、近隣のミスケル皇国に身を寄せる者も少なくないらしい。周辺国との関係が良好でよかったな」

「ミスケル皇国なら……大丈夫か。皇帝が上手くやってくれるはず」


「……ヴィスケルと個人的な親交があるのだったか?」

「そうです。アイツの能力は疑いようもありません」


「なら一つ安心材料ができたと言ったところか……。それで、お主は既にその目で見たようだが――魔物の出現も確認されている」

「……はい」


「魔王の魔力が消えたことは、そこそこの魔法の才がある者ならば誰でも感じ取れることだ。だから、魔王討伐が不完全だった訳ではない……」

 そのはずだ。

 俺は確かに――この杖で奴を殺した。

 存在の消滅を確認した――はずだった。


「そして――ここからは今し方届いた情報になるんだが」

 その言葉に、復習モードで聞いていたリーシャが居ずまいを正す。


「イリエス王国の外れ――エルフの里に近い所に、正体不明の遺跡が出現したらしい」

「遺跡……?」

「遺跡の入り口には巨大な扉があって、力任せに殴っても魔法をぶつけてもびくともしないらしい」

「じゃあどうやって中に?」


「扉には―――聖紋が刻まれているそうだ」

 聖紋。

 俺とリーシャは互いの手の甲を見つめ合った。

 左手の甲に判然と浮かぶ黄金色の紋章。


 ユニークスキルを持つ人間に刻まれる、楔を重ねたようなデザインの紋章だ。

 俺は賢者としてのユニークスキルがあり、リーシャは聖霊と語らうスキルを保有している。だから、俺たち二人には共に聖紋が宿っているのだ。


「恐らく、聖紋を持つ人間が触れれば開くのだろうな……」

「じゃあ……まずは、その遺跡を調査しに行こう。今すぐに」


 立ち上がる俺を見て、長老は静かに息を吐いた。

「……事態は確かに一刻を争う。しかし忘れるな――お前の代わりは居ない」


 そっと目を伏せて、再度俺を見つめる。

「お前にもしもの事があれば――此度の件を解決することは叶わんだろう。ただの勘じゃが……それでも、千年生きたエルフの勘だ。心に留めておけ」

「……はい、長老」


 贈られた言葉を抱き締めて――俺は歩き始める。

 失ったものを取り戻すために。

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