第六十五話 炎
レスカディアの声は微かに震えているように聞こえた。
『老齢になったといっても、ファレイヴィスが不覚をとるような戦士が存在するとは思えない……なら――――』
喉元に突き立てられた剣。
そこから溢れ出る光。
『――――そういう、ことなのか……ファレイヴィス』
「……何か思い当たることがあるのか?」
俺が訊くと、レスカディアは僅かに首を縦に動かした。
『物理的な攻撃も魔法による攻撃も、半端な威力の攻撃では龍の生命を奪うことは叶わない。だが……或る条件を満たしたとき、その原則は崩れる』
「条件……」
『――――龍自身が死を望んだときだ』
ファレイヴィスが……死を……?
『龍の身体を外界から守護しているのは加護のようなものだ。だから、加護の所有者自身が防御を望まなければ――――龍の身体にも傷を付けられる』
重々しく告げられた事実。
どうして、ファレイヴィスが死を望む必要があった?
『……分からぬ。昔なじみではあるが――――アイツは突拍子もないことをする奴だったからな。だが、奴の行動には必ず理由が伴う。此度の件でも何か……深慮があったに違いない』
悠久の時を生きる龍の死に意味があるとしたら。
その裏に、どんな事象が姿を隠しているのだろう。
『しかし……まだ謎が残るな……』
「謎って、何が……」
「――――レスカディア様。イリエス王国が見えました」
道案内を担うシルヴィアが眼下を指さした。
赤々と蠢く炎に覆われた王城。城下町。
俺の二つ目の故郷。
『ふむ……。確かに濃密な魔力が込められているな』
「消せそうですか……?」
リーシャが恐る恐るといった様子で訊くと、レスカディアはうむ、と頷いた。
『私の魔法出力なら吹き飛ばせるはずだ』
「頼む。仲間の手がかりが残っているかもしれないんだ」
『了解した……少し耳を塞いでおけ』
言いつけ通り耳に手を当てた――――その瞬間。
レスカディアが天を割るような叫び声を上げる。その声に呼応するように、空中に巨大な魔方陣が展開された。
『【吹き飛ばせ】ッ』
魔法が起動される。
高密度の魔力が多量に含まれた暴風が王城に吹き付けた。
炎は暫くしがみつくように蠢いていたが、最後には風に呑まれて消滅した。
『本物の炎だったなら、風を吹かせるのは延焼を引き起こすだけの愚行なのだろうが――――魔法ならばその限りではない。同等以上の魔法をぶつければ消滅に導ける』
「……ありがとう、レスカディア」
イリエスの王城を呑み込んでいた炎は消滅した。
各所に崩落が見られるものの、城は未だ原型を保っている。




