第六十四話 傷
『イリエスとやらはどっちの方角にあるんだ?』
「えっと……ここからだと神殿の入り口方向、と言えばいいですかね……」
『了解した……そうだ。出発する前に訊いておきたいことがある』
レスカディアは俺たち三人のことを見つめた。
『お前達はどうやって神殿に到達したのだ? 浮遊魔法などでは、あの暴風の渦は突破できないだろう』
「メギアに連れてきてもらったんだ」
俺がその名前を出すと、レスカディアは堪えきれないといった様子で笑い始めた。
『はは! アイツが人間に手を貸すとはな! ああいや……そうか! 聖霊姫がいるなら頼みは断られないか……!』
「なぁ……メギアも言ってたけど、聖霊姫の頼みは断れないってどういうことだ?」
『ん? ああ……アイツは聖霊によって生み出された龍だからだな。私とは違って』
「……じゃあ、レスカディアはどうやって生まれたんだ?」
『私は世界の要請に応えて自然に生じたのだ。大気を操る存在が必要だったらしい……』
……確かに。
メギアが司るのは罪悪だもんな……。自然発生的に生まれるとは考えづらいか。
『……では、向かおうか。背に乗れ』
……なんかメギアとは感触が違う。レスカディアの方が触り心地がいいというか……。
羽毛って感じ。アイツのは銀メッキされてるみたいな感じ。
『飛び立つぞ。掴まっていろよ』
「――――あ、そうだレスカディア! 来るときは結界魔法で防御してたんだけど……」
『要らぬわ。大気の流れを完全にコントロールできるからな。落ちることはない』
「そっか。ありがと」
レスカディアが大きく羽ばたくと、すぐに神殿が遠くなる。
『飛ぶのも久々だ。やはり空を駆けるのは気持ちがいいな』
「いつもは何してるんだ……?」
『眠っている』
「人間っぽいなお前……っていうか、さっきみたいに侵入者がいるかもしれないんだから、もっと安全なところで寝た方がいいぞ」
『あの場所で眠るのが一番安全だ。私の力が最も高まる場所だからな。先刻の不届き者も、私に攻撃が通じないのに気づいて焦っていたんじゃないか?』
「あ、そうなの?」
じゃあ急いで守ろうとしたあの行動に特に意味はなかったのか……。
『そもそも生半可な攻撃じゃ龍にダメージを与えることなど出来ぬよ。龍が傷つく姿を見たことはないだろう?』
「……いや、それは…………」
逡巡する。言っていいものかどうか。
『どうした?』
「……ファレイヴィスが亡くなる瞬間を見たんです、俺たち」
俺がそう言うと、レスカディアの動きが一瞬止まった。
『それは……真か?』




