第六十話 ある少年の刻印
『分かってるわよね……ミライ。禁忌を犯した神がどうなるのか……』
やめろ。
それ以上は――――。
『――――長い眠りについてもらうわ』
「【現れよ】」
男――――聖霊王が魔法を唱えた瞬間、石像から青色の魔力が放出される。
それは段々と形を結び、聖霊と酷似した女性の姿をとった。
『言い訳はないのね、ミライ』
『……ごめんね、―――――』
女神が最後に口にしたのは――――少年の名前だった。
『【門よ開け。罪ある者に罰を。救済の果てに過ちを犯した者を咎めよ――――】』
「や、めろ……」
少年が口を開くと、聖霊王は片眉を上げて驚愕を示す。
「古代の封印魔法を受けてまだ動けるとは――――流石ラファヴィーの最高傑作ですねえ」
少年の身体に更なる負荷がかかる。発声すら困難になる。
「あ…………ぐッ……」
『【赦しを求めよ。悔いを改めよ。主は全てを見ている。隠すことはできない――――】』
『……ぁ、う……』
女神の身体から白色の光粒があふれ出し、透明になっていく。
「……ぐッ……ああッ……う、ごけ……」
少年が女神に向かって手を伸ばす。伸ばそうとする。
少年の意思に反して、身体は微かにも動かない。
『【鏡に映るは汝の過去。瞳に映るは汝の未来。汝の眠りを雷が眺める。汝の目覚めを私が見守る――――結ばれた世界は、今閉じられる】』
やめろ。やめろやめろやめろやめろ。
その人を――――俺から奪わないでくれ。
『【――――悠久の眠りを享受せよ】』
白色の光が迸る。
視界を塗りつぶす白色の中で、少年は最後に青を見た。
少年に向けて微笑む、青の女神を。
「――――殺してやる」
「あなた、まだ……」
「殺してやる――――聖霊ッ! 何百年かかろうと――――何千年苦しもうとッ!」
少年の頬には涙が伝っていた。
少年に見限られたはずの魔法の息吹が、彼を取り囲む。
「俺の意思が生き続ける限り――――俺はッ! お前を――――」
「【封じよ】ッ」
聖霊王の魔法が少年の肉体を縛り、異界へ幽閉しようとする。
しかし。
彼の意思は――世界に刻み込まれた。
剣聖の”役割”と共に、彼の意思は生き続ける。
『恨まれたって……構わないわ。私は――――ミライの姉なんだから……』
聖霊の呟きが、女神の物語の終焉を見つめた森に響き渡る。
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目覚めなさい。ユキヤ。
あなたの世界を守るために。




