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第五十七話 ある少年の面影

 女神軍の快進撃は留まることを知らなかった。

 たった一振りの剣で戦場を軽やかに駆けていく少年を旗印に、兵士の戦意はかつてないほど高揚している。


 個々のパフォーマンスが向上した兵士を束ね、最適な戦術を組む賢者。彼も、この戦いを圧倒的な優勢に傾かせた立役者だった。


 未来視を会得しているのではないか、と疑うほどに鋭く研ぎ澄まされた観察眼には少年も内心感嘆を抑えきれずにいた。


 賢者の示す地点が、少年が最も自由に動ける場所だった。


 少年の視界には無数の流れが映っている。

 女神から授けられた剣を手に取ったあの日から――――少年の感覚は世界の微かな揺らぎすら感じ取れるほどに研ぎ澄まされていた。


 過去から未来へと、よどみなく進み続ける時間。それを見て取れるほどに。

 俺はここに居る――――世界にそう告げるような、圧倒的な一閃が世界に刻み込まれる。びりびりと肌を震えさせるような衝撃が走る。


「――――剣聖に続けッ!」


 後方から賢者の声が聞こえる。

 兵士が一斉に魔王軍へと突貫していく。


 少年は走る。


 彼を縛る物はなにもない。彼を止められる者は存在しない。


「今が最大の好機だ――――魔王の首を取れッ! 剣聖ッ!」

 わかってるさ。

 少年は声に出さず、胸中でそっと呟いた。


 ――――()()()


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 魔王の居所は遺跡のような建造物だった。

 常人なら一秒も経たずに正気を失うような濃密な魔呪。


 それすらも、彼を止めることはできなかった。

 彼の視界では魔呪汚染が可視化されていた。煙のように漂うそれを、少年は剣を振って払いのける。

 一瞬のうちに断たれた空間から、金属が擦れるような奇怪な音が鳴る。


 数百体もの翼の生えた醜悪な魔物が出現する。

 遅い。緩い。弱い。


 呼吸を整える。目を見開く。剣の柄に手をかける。世界の動きが鈍化する。力を込める。地面を蹴る。


 剣を振り抜く。


 おぞましい叫び声を上げ、魔物が消滅していく。

 彼を止める障害はなにひとつなくなった。

 あとは――――魔王を殺すだけだ。


 階段を上り、広間へと向かう。

『――――来たか。女神の手先よ』


「魔物の長って言うからどれだけ奇怪な見た目かと思っていたが……人間そっくりじゃねぇか」

『人間の形態が最も魔力効率が良いのだよ。剣の一本で生きているお前には関係ないかもしれないが』


「確かに関係ないな」

 少年は剣を構える。


『名を聞こうか』

 魔王が杖を構える。


「名前なんてどうでもいい。女神の騎士。それ以外の肩書きはいらない」

『はっ……狂信者とはお前のような者を指すのだろうな』



 少年は地面を蹴った。

 悠久の戦いに終止符を打つために。

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