表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/107

第五十六話 ある少年の幻影

 女神の騎士が戦争に参加したその日、拮抗状態にあった戦況は一変した。

 風のように気まぐれに、烈火のように荒々しく。


 月を背に戦場を駆ける少年は、どこまでも自由だった。


 あらゆるしがらみから解放され、無心に剣を振る彼を――――人は剣聖と呼んだ。


「ラファヴィー! お前、今日も絶好調だったな!」

 後方から攻撃魔法を放って魔物を倒していた魔術師が、少年に話しかけてくる。


「その名で呼ぶな。俺は既に家を捨てた。俺にはただ一人の主がいるだけだ」

「お前の女神様への忠誠心は見上げたものだよ、ほんと。あの胡散臭い神官なんかよりずっと敬虔じゃねぇか」

「あんな奴と一緒にするな……」

 

 大陸西半分に留まっていた女神領は、今や大陸の八割まで広がっていた。

 それも全て、少年が魔王軍を蹴散らしていることが要因である。


 資源が豊富な大陸東側にまで領土を広げたことで、民の生活水準は劇的に向上した。民の多くは戦場で鬼神の如き活躍を見せる少年を、英雄だと讃えていた。


 少年自身はその名声に一切の興味を持たなかったが。

 

「今日の進軍はここまでとする。軽傷者は何人か居るものの、本日も犠牲者はゼロ。……ラファヴィー。お前のお蔭だ」

 軍を指揮する”賢者”が少年の肩を叩く。

 女神軍はその吉報に湧き、少年の家名を連呼し始める。


「その名で呼ぶなと言っているだろうが……」

「明日から進軍する領域は、魔呪汚染が一層進行しているとの情報が届いている。気を引き締めるように」

 以上、と言って賢者は集まりを解散した。


「よぉ~し宴会だ宴会! 剣聖! こっち来い!」

「酒は好きじゃないんだが……」


「女神様の教えにも、酒は適量楽しむのがいいって書いてあったぞ……うお! 飲んだ! お前女神様好きすぎるだろ!」

「……大して美味くないな」

 少年も巻き込まれた宴は続き、夜は更けていく。



 深夜。

 軍の兵士のほとんどが酔い潰れ、机や壁にもたれかかって眠った。

 少年はそっと席を離れ、正気を保っていそうな男の元へと移動した。


「……おお。珍しいじゃないか。お前が自分から俺のところに来るなんて」

 賢者は少年を見て片眉を上げた。

「まともそうな人間がお前しか居なかったんだ……」

「みんなぶっつぶれてるもんなぁ……全く、平和ぼけしてんじゃないか?」


 宴会場の惨状を見れば答えは明白だった。


「お前……疲れてないか?」

「……は? なんだ急に」


「女神軍は今、お前に頼り切っている。相当な負担がお前にかかっているはずだ」

「……疲れは感じてない。あと、俺は女神様のために戦っているんだ。お前達のためじゃない」


「はは……。なるほど。お前の信仰心はほんとに大したもんだよ」

 賢者はジョッキを呷り、一息つく。


「ま、大丈夫だったらいいんだ。けど……辛くなったらすぐ言えよ? すぐに作戦を練り直すから」

「…………ふん」

 微笑みかける賢者に、少年は鼻を鳴らして応答した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆☆☆☆☆から、作品の率直な評価をよろしくお願い致します。 また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると大変励みになります。 script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ