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第五十五話 ある少年の幻想

「……え?」

『もう一回言おうか? 君は――――剣才を手に入れられるなら、魔法の才能を捨てられる?』


 少年は心の深い場所から笑いがこみ上げるのを感じた。


「……考えるまでもない。魔法の才能なんかとうに見限った」

『剣では魔法に勝てないかもしれないよ?』


「――――()()。他の誰にもできないとしても……俺ができない理由にはならない」


 ふふ、と女神は笑った。

 それは今までの演技がかった笑みではなく……心の底から漏れ出た微笑に思えた。


『馬鹿ねあなた。でも……声をかけてよかった』

「……なんだったんだよ、今までの質問」


 少年が涙を見せた恥ずかしさを隠すように、ぶっきらぼうに言ったその瞬間だった。

 女神像から青色の光が放たれた。


「……なっ」

『痛くしないから、ちょっと待ってね』


 光は脈動するように大きくなり、次第に収束していって――――一振りの剣になった。

「これ、は……?」

『持ってみなさい?』


 言われたとおり、少年は剣を握った。

 その瞬間だった。

 万雷がまとめて少年に降り注いだような、そんな劇的な感覚が少年を襲った。



 この剣は――――。



『それ、剣の概念そのものを固めたものよ。きっと気に入ると思うわ』

 少年は声を発することなく、後ろを振り返る。


 女神が呼び止めることはない。

 突き当たりに至ったところで、少年は剣を構えた。


 いつもの呼吸。いつもの姿勢。

 でも、何もかもが違った。


 少年の目には”永遠”が映っていた。

 流れを止めぬ時間。それが視界を揺らがせるように思われて――――。


 剣を、振った。


 その衝撃に耐えられなかったかのように、世界がひび割れる音が聞こえた。

 青く鋭く、しなやかな一閃が刻まれる。


「……これだ」

 数十本の木々が倒れた光景を背にして、少年は女神像に向かった。


『どう? 気に入った?』

「……ああ」


『よかったわ……。それでさっき言ったことだけど……あなた、もう魔法は使えないわ』

 あなたの器が溢れちゃうもの、と女神は付け足した。


「構わない。もう一度あの景色が見られるなんて――――思わなかった」


 少年は女神像に向かってかしずいた。

 剣を隣に置き、頭を垂れて。

 目を閉じて――――誓う。


「私は――――あなたのために戦います。女神様」

『うふ……ふふ。急に殊勝になられると変な気分ね』


 でも、と女神は続ける。



『信頼しているわ――――私の騎士』



 この日、一人の剣士が誕生した。

 万物を両断する、鬼神の如き絶技を持った――――女神の騎士が。

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