第五十三話 ある少年の追想
『美少女だと思った? 残念、石像ちゃんでした』
「マジでイライラするからやめろ」
少年は像に向かって歩いていく。
「で、なんだ? お前はこのちっこい石像の中に居るとでも言うのか?」
『わかってるじゃん。話が早い子は好きだよ』
「帰る。時間無駄にした」
『ちょ、ほんとだって! ねぇ、戻ってきて!』
必死にすがるような声音に、少年は振り返って像を眺めた。
「なんだよ……ほんとにこのちんちくりんがお前だってのか?」
『ちんちくりん言うな。本物の私はもっとお姉さんだっての!』
「……本物?」
『うん。この像は私を模して造られたものだね。世界中――――とまでは言わないけど、大陸西半分にはいっぱいあるよ』
「……おい。俺の記憶が正しければ、この像は女神を祀るための物だったはずだが?」
『知ってるんじゃん。そうです。私が女神様です』
えっへん、と呟く自称女神に、少年は辟易した声で言った。
「痛い奴だとは思ってたが……女神を騙るほどの馬鹿だとは思わなかった」
『騙ってない! ほんとに私は女神なんだから!』
どうしたら信じてくれるの? と演技っぽい涙声で話しかける声に、少年は一つ息を吐いて言った。
「お前が本当に女神なんだったら――――俺に剣の才能を与えてくれよ」
吐き捨てられた言葉は、少年の本心を映していた。
「お前もさっき言ってたよな。俺には剣の才能がない。ちっちゃい時のあの体験も偶然だ。そんなの分かってる――――わかりきってんだよッ」
でも。
「それでも俺は剣を捨てることができない。見てしまったから。あの輝きを。あの一太刀を。何もかもを捨てていいと思ったんだ。あれをもう一度見られるなら。……でもッ!」
でも。
「俺には無理だ……。何年経ってもたどり着けない。何を捨てたところで――――叶わない願いだったんだ……」
『……それが、君の本心かい?』
少年からの返答はない。
『……なるほどね。君が剣に求めるのは――――究極には美なんだねぇ。そっかぁ』
少年は沈黙を保っている。
『だから君は魔法を捨てちゃったんだ……。魔法の名家出身で、当代一の天才だって言われてたのにね……』
「――――なん、でそれを……」
なんでそれを知っている?
うふふ、と笑い声が響いた。
『私がほんとに女神だから、かなぁ……』
心底楽しそうに、彼女は笑った。




