第五十二話 ある少年の追憶
『自分でも分かってるでしょ? 君には才能がないんだよ』
心の奥にずけずけと踏み入ってくる失礼極まりない言葉に、彼は剣を振る腕を止めて叫んだ。
「”才能ない”の一言で――――他の奴らと十把一絡げにされてたまるか! 俺は神を見たんだッ! わかんねぇ奴は黙ってろ!」
『だからさ……それ、偶然でしょ?』
「……あ?」
『再現性のない技なんて持ってないのと一緒だよ。薄々感づいてるくせに。自分に嘘をつくのがお上手なこと……』
うふふ、と芝居めいた笑い方をする声。
「……どこに居るんだお前。叩ききってやる」
『怖い怖いっ。一太刀じゃ死ねないだろうね。そのぬるい剣筋じゃ』
「コイツ……ッ」
少年がいくら周囲を見回しても人影はない。
当たり前だ。この森には魔物がうじゃうじゃいる。
人が安易に踏み入っていい場所じゃない。
「何者だお前はッ! どこから喋ってやがる!」
『意外と近くに居るよ~』
間延びした声に、少年の苛立ちは更に増大する。
「ああ? 誰も居ねぇじゃねぇかよ。なんでお前の声が近くで聞こえんだよ」
『後ろ向いてごらん?』
素直に指示に従うのは癪に障る……と思ったが、少年は渋々後ろを向く。
「向いたぞ。誰も居ねぇじゃねぇか」
『ちょっと歩いてみよ~う。ほら、すぐ終わるからさ』
「……ちッ」
道を歩きながらも、少年の頭には例の女性の声が聞こえ続ける。
『君、ずっとここで剣振ってるよね? 戦いに行こうとか思わないの?』
「お前も言ってただろ。あんなぬるい剣筋じゃ話にならねぇ」
『割に善戦できると思うけど?』
「善戦程度じゃ駄目だ……もっと先を目指さないと」
『ふぅん……。理想が高いんだね。無駄に』
「てめぇは喧嘩を売りながらじゃねぇと喋れねぇのか」
『あはは。一理ある。そこ右ね』
なんで道案内されてんだ……と思いつつも、少年は何故か――――この声に惹かれ始めていた。
どうやっても人間には拒絶できないような――――奇妙な魅力がある。
『あら? 私に惚れちゃった?』
「誰がお前みたいな毒舌に惚れんだよ」
『まぁそうだねぇ~。ちっちゃい子には刺激が強いカナ?』
「気色悪い」
『悲しい……およよ。あ、そこ左。ちょっとまっすぐ歩いて』
「微塵も悲しんでねぇだろお前……で? あとどれくらいだ?」
『ん? 着いたよ?』
「は? 誰も居ねぇじゃ……」
少年の視線の先には――――一体の像があった。




