第五十一話 ある少年の記憶
――――少年には剣の才がなかった。
女神と魔王、簡単に世界を壊せるほどの強大な力を持つ存在が各々陣営を作り、日々戦いに明け暮れていた時代にあって――――非力な少年には価値がなかった。
――役立たず。
――お前には才能がないんだから、諦めたらどうだ。
――強情は時に身を滅ぼすぞ。
うるさい。知ったような口をきくな。
――剣なんか振ったって魔法には敵わねぇよ。
――遠距離から狙撃されたら反撃できないじゃねぇか。
――剣術なんか、時代遅れなんだよ。
お前が決めることじゃないだろ。黙ってろ。
陽が昇っても沈んでも、三度昇って沈んでも――――少年は剣を振るのをやめなかった。少年には目指すべき景色が見えていたから。
ずっと幼い頃、彼が振った剣は巨木を両断した。
誰も信じず、幼子の他愛ない嘘だと流されたあの記憶。
彼だけは、それを忘れることができなかった。
後にも先にも、彼が剣の神の存在を見たのはあのときだけだった。
あの頃の動きを何度なぞっても――――あの剣筋は再現できない。
力強さだけじゃない。あれは美しかった。
人生全てを捧げたっていいと思うほどに。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
少年はいつものように森へと向かう。
彼はこの森で、自らの腕に剣の神が宿るのを見た――――だからそれは、験担ぎのような物だった。
「始めるか……」
上着を脱いで、剣を構える。
鍛え上げられたその肉体は、全て剣を振るためにこしらえられたもの。
「――ふッ」
常人の目には映らない、稲妻のような一振り。
彼の業は入神の域に達していた。しかし――――まだ足りない。
彼が目指したのは剣の頂――――ですらない。
彼が目指すのは、この戦いに終焉をもたらす圧倒的な力。
風のように自然で、烈火の如く荒々しい。そんな力を求めていた。
剣を振る。振り続ける。
命など惜しくない。
願うのはただ一つ。
もう一度――――あの美技をこの手に。
だから彼は剣を振り続ける。
『ねぇ、君。いつになったらやめるの?』
彼だけの世界に、そんな声が響いた。




