第五話 賢者失格
理不尽な追放。
アレは――俺を逃がすための策だったのではないか?
「でも、だとしたらガイシュ様は――王国に迫る危機に気づいていたということにならない?」
「気づいていたんじゃないか? ……そう言えば、パーティーメンバーに挨拶することも禁じられたんだ。あれは何か関係が……?」
「……今のところ分からないけれど、何か考えがあったのでしょうね。なにせ――」
賢王ガイシュ。
千年を超える王国史に燦然と輝く名君。
敵の先手を打ち続けることで、王国を未曾有の発展に導いた天才である彼のことだから。
「でも――現在のところ、彼の行動の意図を掴むことは難しいでしょうね。推測を立てるための材料が余りにも少なすぎる」
「そうだな……やっぱり、行動を始めないとどうにもならない。ありがとうリーシャ。この恩は必ず――」
「ねぇ、ユキヤ?」
彼女の端正極まる顔に、凍てついた笑みが浮かんだ。
「その口ぶりだと、私を置いて行動を始めるみたいに聞こえるけど」
「え……だって、リーシャに迷惑をかけるわけには」
周囲の温度がぐっと下がった。
まずい。
怒ってる……。
「あのね……ユキヤ?」
「は、はい」
「あなたに迷惑をかけられたと思ったことは一度もないわ。わかってる? 私はあなたの力になりたいの」
「リーシャ……」
「あなたには恩があるの。エルフの長い一生でも返しきれないくらいの恩が。だから――あなたの横に、立たせてよ」
魔王討伐の旅の初め。
この里に立ち寄ったときの彼女は――まだ、守らなければならない存在だった。
俺が助けてやらないといけないと思っていた。
けれど今はどうだ?
魔法の実力は俺と拮抗している。近接戦闘でも魔物と渡り合えるくらいには身体能力も鍛えられている。
何より――その意思が強まっている。
翡翠の輝きを持つ瞳を正面から見据える。
もう彼女は――守るべき存在じゃない。
隣に並んで、互いに助け合う関係の方がずっと相応しい。
「ごめんリーシャ……ずっと、勘違いをしていた」
やっぱりまだ――英雄気分を捨てられていないみたいだ。
「君は――こんなに強くなっているのにな。俺の目が曇ってたよ」
手を差し出す。
「俺を助けてくれ――リーシャ」
賢者失格のその文言に、彼女は最高の笑みで返答をした。
「もちろん」




