第四十六話 虚構だとしても
――――勝負だ。
体内を巡っていく青の魔力を捉える。
「【清め給え。御心のままに。命の安らかなることを。時の穏やかなことを――――】」
私が扱える最高の浄化魔法を唱える。
周囲に微かな風が吹き始める。莫大な魔力操作に伴い、大気が僅かに揺れているのだ。
「【私は願う。全ての命の安息を。私は知っている。それが叶わぬことを。人の身に余る願いだと――――】」
青の光の動きが止まる。
浄化魔法の本質は――――破壊。
呪いがかけられたという情報そのものを抹消する魔法。
「【願いは巡る。空回りつつも……時間のように。願いは継がれる。惑いながらも……命のように――――】」
血液中の魔力が吸われていくのを感じる。
この青の魔力が求めるのは――――血液に溶け込んでいる濃密な魔力なのか……?
青の魔力の動きが鈍くなっていく。
「【私は誓う。目を背けぬと。耳を塞がぬと。だからどうか教えてほしい。汝の罪を――――】」
ピキリ、と石像にひびが入る音がした。
青の魔力は逃げ場を失い、ただ固まっている。
「【私は聖女。どこにも逃げない。抱き締めよう。慰めよう。傷を共に抱えよう――――】」
石像が白い光に包まれる。
「【――――安寧なる眠りを求めて。共に】」
詠唱が完結する。
渦巻く白の魔力が、世界を染め上げていく。
石像が中心から砕け散り、暗い森に陽光が差し込み始める。
「…………はぁ」
大きく深呼吸をする。
「完全詠唱――――初めて成功したな……」
地面に倒れ込む。魔力が回復するまでちょっと休憩……。
木々の間から何かの気配を感じた。
杖を掴んで様子を見る。敵だったら……かなり厳しい戦いになりそうだけど。
木の間から姿を見せたのは――――鹿だった。恐らく、さっき助けた子だろう。
地面に倒れ込んだ私を見て、近くにまで寄ってくる。
「……心配してくれてるの? 大丈夫だよ……」
顔を近づけてくる鹿の頭を軽く撫でる。
全てが虚構だったとしても、私に救えた命がある。
それを考えるだけで、心が温かくなる。
何も救えなかったわけじゃない。
私にだって……できることがあった。
それがひどく嬉しい。
道の先を見ると、魔方陣が地面に描かれていた。
……来たときにも見た転移術式だな、あれ。
アレを発動すれば神殿に帰れるのだろう。
けど……もう少し休んでからにしよう。うん。途中で倒れたら迷惑だし。
…………二人は大丈夫かな。




