第四十話 無謀
『そろそろ警戒しておけ。揺れるぞ』
飛行状態に入ってから三十分ほど景色を眺めていると、メギアが忠告をしてくれる。
「安全運転で頼む」
『……安全運転を望むなら霊龍の巣には行かない方が賢明だぞ』
侵入者を危険にさらすための暴風域なんだからな、とメギアは言った。
「そりゃそうか……」
『最悪お前は落ちても何とかなるだろうが、聖女と聖霊姫が心配だ』
「長老もそうだったけど……みんな俺をなんだと思っているんだ……」
「……私たちも聖紋を授けられた人間だから、大怪我にはならないと思うよ」
「落ちたくはないけれどね……」
『……賢者の無謀が伝染っていないか?』
「俺の無謀は感染性じゃない。先天的なものだ」
『そ、そうか……なぜ誇っているのかわからないが』
あれだけ俺に毒舌の限りを尽くしていたメギアの歯切れが悪い。
感心したのだろう。改心したのかもしれないが。
「ユキヤ。あれ――――」
俺の服の裾をちょこんと掴み、リーシャが前方を指さす。
「……あれ、突破できるのか?」
「龍の力を借りていなかったら明らかに無理だったね……」
黒雲が渦巻く球状の空間が見える。
あれが――――霊龍の住処。
『――――行くぞ』
一層速度が増す。それでも球の中心から吹き荒れる風の影響を受け、方向が安定しない。結界も悲鳴を上げるように軋み始める。
雷がそこかしこで地に向かって駆け下りていく。
『――――全く。こんな厄介な仕掛けを……』
「メギア、大丈夫なのか?」
『急に落ちたりすることはないが――――前回来たときよりも風圧が増している。体力が保つかどうか……』
「……シルヴィア。メギアに回復魔法をかけ続けていてくれ」
「わかった。【癒えよ】【癒えよ】――――」
結界の外の様子を観察する。
「【守護せよ】」
風を緩和する壁を展開した瞬間、余りにも強い風圧を受けて魔法の制御を持って行かれそうになる。
「ぐ――――ッ」
その瞬間、リーシャが俺の腕に手を添えた。
柔らかく、しなやかで強い魔力が腕に流れ込んでくる。
――――これなら維持できる。
「メギア。俺達が道を作る。そこを一気に飛んでくれ!」
『道……。了解した』
メギアの周囲に風を防ぐ壁が常に展開されるよう、相対位置での魔法行使を行う。
リアルタイムで変わる位置情報を瞬時に計算して調整しなければならない、かなり困難な技術だが――――。
リーシャとなら……成功させられる。
「――――行けッ! メギア!」
一層強い羽ばたきが宙を打った。
比較にならないほど強い衝撃が壁に走る。位置計算も複雑になる。
でも。
謎を解かなきゃいけない。
知らないままじゃ死ねない。
飛ばないといけないんだ――――。
結界が破れる。
散逸した魔力が空に消えていく。
しかし同時に黒雲が晴れ、宙に浮かぶ巨大な建造物が姿を現した。
間に合った――――のか?




