第四話 王の意図
「【癒えよ】」
リーシャの華奢な手が俺の肩に触れた。
温かく心地よい光が、傷口から染みて全身に巡っていく。
「……痛くない?」
「ああ……ありがとう」
優しく柔らかな光。彼女自身のような治癒魔法だといつも思う。
「……よし。これで大丈夫だと思う。腕、回してみて」
「……全然痛くない。これで満足に動けるよ」
「よかった」
首だけで振り返ると、陽だまりのような微笑が視界を埋める。
「……ぁ」
治療の時は気にならなかったようだが、かなり距離が近い。
昔からリーシャは、俺が近づくとよく顔を朱に染めていた。
最近は慣れてきていたようで、この反応を見るのは珍しくなっていたのだが、不意打ち気味だったのがまずかったのだろうか。
「ありがと、リーシャ」
「……どういたしまして」
顔を背けてぶっきらぼうに言う彼女。
昔と変わらないその反応に、少しだけ安心する。
全てが変わり果ててしまったわけじゃない。
俺の傍にあった物――その全てが遠くに行ってしまったわけじゃない。
「……いつまで見つめてるの」
「ああ、ごめん」
照れ隠しのように呟くその言葉も、昔と同じだった。
「可愛いな」
無意識のうちにそう呟いてしまった。
「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょっ。策を考えなさいっ」
「ごめんごめん。……じゃあ、少し話を聞いてくれるか」
「……うん」
「王国が燃えたあの日―――俺は王国を追放されていたんだ」
「……え?」
「魔王討伐を報告した日の夜のことだ。俺は一人で王の間に呼び出された。報告の際にガイシュ様が褒美をはずむとか言っていたから、希望でも聞き出したいのかと思っていた」
「……うん」
「今思えば―――少し変なところがあった気がする。王の間に入ったとき、お付きの兵士が誰も居なかった。王の間には俺とガイシュ様の二人しか居なかったんだ……」
「二人しか居なかった……?」
「ああ。それで……俺は突然、国から出て行くように言い渡された。世間話も何もあったもんじゃなかった。単刀直入に―――どこまでも簡潔に命令された」
「……なるほど?」
「もしかしたらガイシュ様は―――焦っていたのかもしれない。滅多に声を荒らげない人だけど、あの夜は強い口調で怒鳴っていたんだ。あれは―――もしかしたら」
「―――あなたを逃がそうとしていたのかもしれない、ということ?」
俺はこくりと頷いた。




