第三十八話 本質
「忠誠心、か……」
『お前の王は――――愛娘を犠牲にして国の繁栄を取った。その娘はお前とも浅からぬ関係だったのだろうが……その記憶も封じていた』
未だに名前も思い出せない――大切な人。
彼女に関する記憶を封じられて今まで生かされていたことに不満を感じないとは言えない。現実的で理性的な判断を下す賢王でも、自身の娘の命すら供物にできる精神は正直言って不気味だ。
――――でも。
「俺はガイシュ様のことをまだ尊敬してるよ。事態の全貌を思い出したわけでもないから、今判断を下すのは早計だという気もする」
『そうか……。思った通り意志の強い奴だ。我が強いと言ってもいいが』
「俺を貶める言い方にしないと死ぬ病なのかお前は」
『先刻も言ったように、罪とは人間の核だ。本質を表す重要なファクターの一つだ。お前の王が犯した罪は、奴を端的に示す情報となる』
「――――ああ、わかってる」
『心を捧げる相手は選んだ方がいいぞ。……これ以上は何も言わないが』
「意味深な切り方をするなよ……」
……コイツ、本当に俺を弄んで悦に入っているとしか思えないんだが。
「俺からも質問していいか?」
『……内容に拠るが』
「罪悪の回廊で直面した罪が二つだけじゃないって――――どういうことだ?」
俺がそう言った時、初めてメギアの視線の質が変わった。
今までの呆れを含むものから――――幼子を哀れむようなものへと。
『……それは答えられない』
そっと言葉が紡がれる。
『お前が独力で気づくべき事だからだ。……今考えて気づけないなら、気づくべき瞬間は未だ訪れていないということだ』
「今は気づくべき瞬間じゃない……?」
『材料の足りない状況で思考を組み立てても意味がないだろう。我が言えることは――――確かに向き合わねばならない時が来るということだけだ』
からかいや冗談が一つも含まれていないことが分かる、静かで力強い声音だった。
「……わかった。考え続けろって事だな」
『目を背けるな。忘れるな。罪は本質だ。自らの本質から逃げた者に天国は訪れない』
そう言って、メギアはまた俺をいつもの(皮肉めいた)視線で見た。
『で、そろそろ二人を呼んだらどうだ?』
「いや、お前が話があるって言い出したんだろうが……」
『問いは終わっただろう』
「じゃあそう言えって……」
遠くで談笑していた二人の名前を呼ぶ。
二人がこちらに歩いてくる姿を見て――――ここに、ゼクルとルージュが居ればどれだけいいだろうかと、ふと考えた。




