第三十三話 安堵
真っ白な空間で目が覚めた。
立ち上がり、辺りを見渡す。
物は何も存在せず、果てもどこにも見えなかった。
……リーシャとシルヴィアは?
俺はどうしてここに……?
『――咎人よ』
振り向くと、そこには銀翼龍が飛んでいた。
荒々しくも華麗なその姿は、神話に描かれるに相応しい存在感を放っていた。
「メギア……」
『――罪業は見えたか?』
「……え?」
『お前が抱える罪業は……見えたか?』
「罪業って……。俺は――なにが起きているかも分からないんだ。あの世界には一体何が……」
『――なら、お前を出すことはできない』
「待ってくれ……メギア」
きっとこの空間から出たら――――メギアの存在を忘れてしまう。
悪夢のようなあの世界から出るための、唯一の道標を見失ってしまう。
『”罪悪の回廊”で――――最も醜い罪悪を見よ』
純白の光が俺を包んでいった。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
ベッドの上で目が覚める。
何が起こっている?
さっきは確か――――気づいたら地下室に。
そして。
俺の手にはガイシュ様の――――。
気持ち悪い。吐きそうだ。
俺がこの一日を繰り返していることは間違いない。しかも――――ループの起点は少なくとも二つ。
地下室の像に触れようとして腹部を貫かれ――――恐らく死亡した瞬間。
そして、脳内がノイズで占められて何も考えられなくなった瞬間。
後者でも、ノイズは地下室の像の前に立ったときに強くなった。
つまり――このループの鍵は地下室。そしてその最奥に秘された像。
「……ガイシュ様のところに行ってみよう」
以前とは異なる行動を取らなければ、思考の材料が集まらない。
確か――仕事詰めになっているということだったが、少しだけ時間を作ってもらおう。
身支度をして部屋を出る。
王の書斎があるのは四階だ。日中の業務は大抵書斎で行っているから、今はそこに居るはず……。
階段を上る靴音が、ひどく重々しく聞こえた。
書斎の扉の前に立つ。
呼吸を挟んでノックした。
「――――ガイシュ様。少し、よろしいでしょうか」
「ユキヤか? 入っていいぞ」
「失礼します」
古色を帯びた本の匂い。王が好んで飲む紅茶の匂い。
「どうした? なにかあったのか?」
耳から心へと染み渡るような声音。
「ガイシュ様……」
膝から崩れ落ちそうになるほどの安堵を覚えた。
「……様子が変だが、大丈夫か?」
「大丈夫です……少し、待ってください」
そう言った瞬間だった。
――――最も醜い罪悪を見よ。
また声が聞こえる。
思考にノイズが挟まる。
そうだ。
俺はこの人を殺さないと。




