第三十二話 ノイズ
「でもそれは……一昨日の話だろ?」
「一昨日は一緒に食べたでしょ?」
「ねぇユキヤ……本当に疲れてるみたいよ。あなた」
要領を得ない俺の返答を聞いて、ルージュも心配そうな顔つきをして俺を見た。
「魔王討伐の旅は長かったからな……一日二日で癒えるような疲労じゃないだろうさ」
ゼクルも俺を気遣ってくれる。
「そうみたい……だな」
「今日は城で休んでた方がいいよ。それでも体調が優れなかったら私が治癒魔法かけてあげるから」
「ありがとう……シルヴィア」
違う。
違う違う違う――。
昨日だ。俺は昨日を再び生きている。
でも――こいつらを巻き込みたくない。やっと悲願を果たして帰ってきたばかりなんだ。面倒事に首を突っ込ませるなんて……できない……。
朝食を食べた後、皆と別れてすぐに部屋へ戻った。
重く閉めた扉に寄りかかる。下を向いて一つ息を吐く。
俺の身になにが起きている……?
全部夢なのか?
今思考をしている俺さえも――何もかもが。
「……違う」
わかりきったことを問うな。
これは試練だ。
俺に課された試練なんだ。
まずは、地下室を……。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
――――最も醜い罪悪を見よ。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
鈍器で殴られたような激しい頭痛が俺を襲う。
気づけば俺は地下室に居た。
場所も分からない筈なのに……どうやって、俺は……。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
――――最も醜い罪悪を見よ。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
気持ち悪い。
思考にノイズが走る。
なにも、かんがえられない。
持っていたモノを床に置く。
これ……なんだったっけ?
――――最も醜い罪悪を見よ。
「……え?」
俺が持っていたモノは。
「どうし、て……」
息絶えた賢王の遺体だった。
――――最も醜い罪悪を見よ。
「うそだ……」
賢王の腹部には剣が刺さっていた。
その剣は。
その剣は――俺の腰に懸けてあった物で。
機械のようにぎこちない動きで、自分の服を見下ろす。
血飛沫がべっとりと付いている。
「う、そだ……」
――――最も醜い罪悪を見よ。
ノイズが走る。
そうだ。おれはこれをささげないといけない。
女神様にささげないと。
違う。やめろ。
何をしようとしている?
尊敬する人間を殺して――俺は。
一体……。
――――最も醜い罪悪を見よ。
ノイズが走った。




