第三十一話 昨日
ベッドの上で目を覚ました。
腹部を触る。痛みは感じない。服をめくって確認してみても、傷一つなかった。
夢なのか……?
地下室の像に触れようとした瞬間走ったあの痛みは――どう考えても想像上のものではなかった。
あれは――確実にこの身に起こったことだ。
思考を纏めようとすればするほど、事象を結ぶ糸がこじれてきているように思われる。
もう一度、行くべきなのか?
……どこに?
地下室ってどこにあった……?
まずい。何か……手に負えない事が起きている予感がする。
世界全体に干渉するような何かが――。
「――――ねえ、ユキヤ? 起きてる?」
扉の向こうからルージュの声がした。
「……起きてる。ちょっと待ってくれ」
「一緒にご飯食べましょう? 準備ができたら食堂まで下りてきて」
「……わかった」
彼女はそれだけ言って、部屋から遠ざかっていった。
ルージュの身にはなにも起こっていない……と思っていいのか?
それとも――起きたことを覚えていない?
駄目だ。何を考えるべきなのかもわからない。
まずは支度を終わらせて食堂に下りないと……。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
――――最も醜い罪悪を見よ。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
頭が痛む。
思考にノイズが混じる。
……よし。落ち着いた。
階下へと下り、食堂に向かう。
昨日と同じように、パーティーの面々が席に着いていた。
「おはよ、ユキヤ」
「起こしてくれてありがとう、ルージュ……」
「このくらいの時間には起きてくると踏んでいたんだが……お前は俺の想像を軽々と超えてきたな」
ゼクルがにやりと笑って言った。
「いや、なんか……悪夢を見てて」
「悪夢? どんな?」
「いや……正直何も覚えてないけど」
嘘だ。
腹部に走る痛みと、自分の身体から血液が抜けていく光景など、忘れられるわけがない。
「ふぅん……疲れてるんじゃないの? ゆっくり休んだ方がいいよ。当面は仕事ないみたいだし」
シルヴィアが心配そうに俺の顔を覗き込む。
「ああ……ありがとう。ごめん、心配かけて」
食事を進めていると、シルヴィアがにっこりと微笑んで言った。
「明日リーシャがこの城を訪ねてくるんだって。楽しみだね」
「……え?」
明日……?
「シルヴィア……それ、昨日言ってなかったか?」
「昨日? 言ってないよ。前日まで内緒にしておこうと思ってたんだから」
「だって、昨日の朝食の時に……」
「昨日は私、朝から用事があって居なかったはずだけど」




