第三十話 最奥
苦難を乗り越えた仲間と語り、笑いながら時間を過ごす。
この日々が永遠に続いていけばいいと願うほどに、俺は今幸福だった。
明日にはエルフの里からリーシャもやってくるらしいし、更に賑わうことだろう。
今日みたいに会談が取り付けられなければ尚いいんだけど……。
食堂で夕食を食べ終わり、パーティーの皆と別れる。
自室へと向かう道を辿っていると――ガイシュ様の背中が見えた。
「ガイシュ様」
声をかけると、賢王はゆっくりとこちらを向く。
そしていつもの穏やかな声で、俺の名前を呼んだ。
「ユキヤ。最近は話す時間が取れなくて悲しいよ。各国の要人が会ってくれとうるさいんだ」
「俺も会談ばっかりで……」
「そうかそうか。しかし――明日の夜は時間が取れそうなんだ。よかったら話をしないか」
「もちろんです!」
返答を聞いて王は微笑んだ。
「じゃあ、午後九時に王の間へと来てくれないか」
「承知しました。では――おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」
遠ざかっていくガイシュ様の背中を見送って、自室へと戻る。
この手に掴んだ安寧の日々を抱き締めて、眠りにつく。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
――――最も醜い罪悪を見よ。
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――朝になる前に目が覚めた。
異様な気配に覚醒を迫られたのだ。
飛び起きて杖を掴み、部屋を見渡す。この部屋に異変はなさそうだ。
扉に手をかけ、一気に開く。
廊下にも特に変わったところはなさそうだった。
しかし――これは気のせいではない。
城のどこかから醜悪な魔力が感じられる。魔物なんかより――ずっと穢い魔力が。
杖を固く握り、廊下を歩き始める。
自室のある三階を見回る。しかし、異様な魔力が近づいた気配はしなかった。
二階に下りる。この階にはパーティーの他の面々の部屋がある。
一通り廊下を見回ってみたが、不気味な魔力を感じることはなかった。
一階に下りる。
……この先だ。
確信が芽生える。この先に――ナニカが居る。
足音を殺して歩き始める。
向かう先は――足を踏み入れたことのない地下。
どうしてだろう。存在は知らされていたのに、今まで意識を向けたことがなかった。
他の全てに馴染んでぼやけて、全貌が霞んでいたような……。
階段を下りきった。
地下室の扉を開ける。
痛い。
頭が――割れるように痛む。
目眩がする。
導かれるように先へ進む。
明かりがない部屋を、独り。
「――――これは?」
部屋の最奥には像があった。
一体これは――なんの……。
「――――え」
像に手を触れようとした瞬間――腹部が赤く染まった。
視界が欠ける。
力が入らない。
為す術なく地面へと倒れ、自分の血液が流れていくのを見ることしかできない。




