第二十二話 お姫様
「……じゃあ、そこの隙間から出て行くといいんじゃないか?」
塔からシルヴィアの元へ直で向かうという俺の主張を何とか呑み込んでくれたらしく、ヴィスケルが尖塔の中で人間が動ける余裕のある場所を見つけてくれる。
「ありがと、ヴィスケル。この騒動が終わったらゆっくり話をしよう。約束だぞ」
「死にそうな雰囲気を出すんじゃない」
いつものやりとりを終えて、リーシャに視線を向ける。
ん? と小首をかしげるその姿はひどく愛らしい。
「抱えて下りるからさ。こっちに来てくれるか」
「え……か、抱えるって……。重いかもよ?」
「だいじょぶだいじょぶ。ほら」
俺が手を差し伸べると、リーシャはその手を掴んで歩み寄ってくる。
「いくぞー。背中倒してー」
「お姫様抱っこなの……?」
「お姫様なんだからいいじゃないか」
手を回してリーシャを抱え上げる。
いやあの、軽すぎるんじゃないですか。ちゃんとご飯食べてるんですか。
などとうざったい事を言いそうになったが、旅に出てからは俺と同じ食事を取っているはずで……。だからちゃんと栄養は取れているのだろう。
うむ。この軽さはエルフの神秘ということにしておこう。
「こっちの方向であってる?」
「……え、ええ」
「――じゃ。またなヴィスケル」
とん、と尖塔の床を蹴って宙に飛び出す。
爽やかな風が俺たちを撫でていく。
「――気をつけろよ!」
背後からヴィスケルの声が聞こえる。
手を振ってそれに答えつつ、浮遊魔法を適切なタイミングで使って飛距離を稼ぐ。
「……ユキヤってめちゃくちゃね」
「めちゃくちゃ賢いだろ?」
「……ユキヤって意味不明な発想をするわね」
「わかりやすいように言い直してくれなくてもいいから……」
呆れたと言わんばかりの声で話すリーシャ。
しかし腕の中で俺を見上げるその顔には、慈愛を感じる笑みが浮かんでいた。
「ね、ユキヤ」
「なんだ?」
リーシャは俺の問いかけに答えず、無言で俺の背中へ手を回した。
「……落ちないためよ」
「さ、さいですか……」
なんなら落ちても浮遊魔法を発動すれば怪我なく地上に降りられると思うが……。
「……あと二キロくらい。この傾きで下りていけば丁度いいと思う」
「おっけ。ありがと」
蒼穹を背景に、エルフの姫と空を駆けていく。
お伽噺のエピローグのようだけれど――きっと、ここから全ては始まる。
王国を――故郷を取り戻す物語が。




