第二十話 瘴気
「――ファレス火山は今、魔呪汚染の影響を強く受けている」
ファレス火山には立ち入れない。
その理由をヴィスケルは重々しく語り始めた。
「ステータスが強化された魔物が大量に発生している――それだけだったらお前を止めることはしない」
「……なにが起きているんだ?」
「現在、ファレス火山に近づいた者は一人の例外もなく――瘴気にあてられて昏睡状態に陥っている」
魔物と対峙しているときに感じる――頭の中にノイズが侵入してくるような感覚。
それが強まって感じられるのか……?
「魔王討伐を果たしたお前でも、あの瘴気に耐えることは不可能だ……」
頭に片手を当て、記憶の中の痛みに耐えるようなそぶりを見せる。
「俺も直々に視察に行ったんだ――火山の入り口に立った時には、俺の意識は朦朧として正常な判断ができなくなっていた。アレの威力は高度な呪いに匹敵する……」
「……お前でも、か」
皇帝の座に昇り詰める過程で、ヴィスケルは比類なき戦闘の才を発揮していた。
魔物と対峙する機会も一般人の何十倍もあったはずだ。
その彼が――入り口に立っただけで正気を失うと考えると……。
「確かに火山には近づけないな……」
「ああ……残念だが、他の方法を考えてもらうしか――」
「――ねぇ、ユキヤ」
リーシャが小声で俺のことを呼んだ。
「シルヴィアって、魔呪汚染の浄化ができるんじゃなかったかしら……」
「……そう、だ」
魔物と戦った際に聞こえるノイズ。
聖女であるシルヴィアは、その醜悪な響きを『一度も聞いたことがない』と言っていた。
彼女の特質――そして浄化魔法があれば、ファレス火山に踏み入ることができるかもしれない。
「……シルヴィアを、見つけなくちゃいけない」
「確かに聖女なら、この状況を改善できるかもしれないが……居場所はどうやって掴むんだ?」
その課題に対しての一つの解答が思いついていた。
「……リーシャは俺より魔力感度が高かったよな?」
「……ええ。確か」
魔力感度は俺も世界有数の能力を持っている自負があるが――俺が”世界有数”なのに対して、リーシャは断トツで”世界最高”だ。
「ヴィスケル。この国で一番高い建物はこの王城か?」
「ああ。でも、それに何の関係が――」
世界中に広がる魔呪汚染。
聖女の浄化魔法。
世界最高の魔力感知能力。
「最高点から世界を見渡してみて、魔呪汚染が緩和している地点があったら――きっと、そこにシルヴィアがいる筈だ」
そして俺はリーシャとヴィスケルに向けて微笑む。
「で、シルヴィアを見つけたら城の最高点からジャンプして直で迎えに行く」
サムズアップする俺を、二人は未確認生物を見るような目で眺めていた。




