第二話 知りたいと願うなら走れ
走る。意思が続く限り。
生きたいと願う限り。
氷柱が頬をかすめ、肩の三センチ横を炎球が貫く。
走れ。生きたいと願うなら。
知りたいと願うなら―――。
「はぁ……はぁ……ッ」
汗が頬から滑り落ちて地面へと吸い込まれていく。
「ぐッ……はぁ……」
肺が焼けるように痛む。
―――あとどれだけ走ればいいんだ?
―――俺は十分頑張ったんじゃないか?
「あぁ……ッ」
―――もう諦めてもいいんじゃないか?
―――故郷と共に消えてしまった方がいいんじゃないか?
「……ぇ」
―――帰る場所はもうない。
―――迎えてくれる人も居ない。
―――なのにどうして走るんだ?
「……るせぇッ」
―――諦めればいいじゃないか。
―――そんなに苦しんでどうするんだ?
―――苦しめばナニカが得られると思っているのか?
「うるせぇなッ! 生きたいから走るんだよッ アイツらとまた歩きたいから―――今走るんだよッ!」
頭の中にこだまする弱音を押しのけて走る。
もうすぐ……エルフの里の門が見えるはずだ。
あの里に入ればひとまずは何とかなる……。
その瞬間だった。
明らかに気が緩んだ。
「あぐッ……」
後方から飛んできた雷撃が左肩を焼いた。
「……ぁッ」
前に倒れ込む。
砂利が頬に傷を作る。
「……ぁ」
立ち上がれ。動け。動け動け動け―――。
中身のないまま浮き上がる黒のローブが、俺に向かって飛来する。
眼前に魔方陣が展開される。
無理だ。
動くことも―――迎撃することも出来ない。
結局―――意味はなかったのか?
ここまで走り続けたことも。
魔王を討伐したことも。
この世界で懸命に生きたことも。
全部―――。
「【消えろ】」
頭上から声が聞こえた。
魔物の醜悪な声とは対極の―――美しく澄んだ声。
見える範囲の魔物が全て消滅する。
とん、と華麗に地面に降り立った。
「―――ユキヤ、ねぇ……ユキヤ!」
傍にかがんだ彼女の顔を見る。
その顔は今までに見たことのない焦りの色に染まっていた。
「酷い怪我―――ユキヤ、城に連れて行くわよ。いいわね?」
喉が痛んで声が出ない。
彼女の魔法によって体が宙に浮いたのを感じた瞬間、抗いがたい強い眠気に襲われた。
安心して気が緩んだのだろうか。
聖霊姫―――リーシャ。
彼女の傍に居るとき、俺はいつも妙に安心してしまう。
彼女の優しい温もりの、せい……だろうか―――。




