第十六話 ハグ
なんだか懐かしくも恥ずかしい夢を見たな……。
若気の至りというか、精神が未熟だった頃の自分を俯瞰して見せられるとこんなにも恥ずかしいのか……。
テントから出ると、たき火を見つめていたリーシャが少し驚いてこちらを見た。
「おはよリーシャ」
「……なんでそんな、ぴったり四時間で起きられるの?」
「賢者の魔法だよ」
「……本当?」
「もちろん嘘」
予想通りジト目が飛んでくる。
この表情が見たいから嘘を言ったみたいなところもあるし。
「今度こそ寝なよ、リーシャ」
「……しかたないか」
「旅は始まったばかりだし、睡眠不足になってパフォーマンスが落ちると危ないからね」
「私より全然寝てない人に言われたくない……」
たき火の傍に歩いて行き、近場にある岩に腰掛けた。
リーシャは無言で立ち上がり、テントに向かう――と思ったら、俺の方へ向けて歩み寄ってきた。
……あれ、なんかめっちゃいい笑顔なんだけど。
美人さんがいい笑顔だとなんか凄みがありますよね。
「ねぇ、ユキヤ」
「なんでございましょう」
「さっき寝てるとき、シルヴィアの名前を呼んでたけど……どんな夢を見てたの?」
「え、えーと……」
昔ゼクルに言われたことを思い出した。
『女の子の前では別の女の子の名前を出すな……殴られても文句は言えないぞ。殴られないのはその子が優しいからだ……。な、覚えとけよこれ。お前すぐやらかしそうだから』
ごめんゼクル。寝言で名前を言ってしまったときはどうすればいいんだ。教えてくれ。
「……さっきリーシャとシルヴィアの手紙について話したじゃん。そしたら前回の旅でシルヴィアが手紙を書いていた場面の記憶が蘇ってきてですね……」
喋れば喋るほど嘘っぽくなってしまうのは何故なんだろうか。
言葉って不思議。
「なんかその過程で名前を呼んじゃったんじゃないですかね……は、はは」
「……ふぅん」
リーシャが歩み寄ってくる。
しかし――直前まで会話するくらいの距離に居たわけで。
元から一メートルも離れていなかったわけで。
リーシャの手が、俺の腰の少し上を通って背中に回される。
彼女の衣服の滑らかな手触りが直に感じられ、鼓動が早まるのを感じた。
「ちょ、あの……リーシャさん?」
「…………」
無言でハグを続けるリーシャ。
これ、もしかして寝言で夢の内容が筒抜けだったのでは……。
力を込めて抱き締められたかと思うと、ぱっと解放された。
「……おやすみ」
他に何も言わず、それだけ言ってリーシャはテントへと向かう。
……ゼクル。まじで寝言を言わないコツを教えてくれないか。色々支障が出る気がする。




