第十四話 おやすみ
エルフの里を出発してから何日か経った。
確か――今は出立してから三日目の夜。
テントを張って簡易的な拠点を作る作業も、初日に比べれば手早く済ませられるようになった。
「そう言えば、魔王討伐の旅はテントで寝なかったの?」
「ああ……。というか、動いてない時間はないに等しかったよ」
「休憩は……?」
「……シルヴィアが使う”聖女”の魔法で疲労回復してもらってたからな。睡眠も昼寝程度の時間でよかったから、寝袋を地面に直置きしてた」
カフェインなどとは違って脳を勘違いさせるのではなく、本当に根本から疲労を消し去る魔法なので、正直いくらでも動けるのだ。
精神的な疲労を回復するのは結構難しかったみたいだけど。
「あの子、聖女といいながら結構厳しいところあるわよね……」
「そっか、シルヴィアと仲いいんだっけ?」
「うん。魔王討伐の旅の途中も度々手紙をやりとりしてたの」
テントの前にたき火を用意しながら会話を続ける。
「手紙の文面を見ると、シルヴィアってやっぱお嬢なんだな……って思うことが多かった気がする」
「あの子の手紙は凄く綺麗よ。文体が細やかで……。ヒューマンの貴族はそういう教育も受けるのかしら……」
「貴族間の付き合いに欠かせないからなぁ……多分受けさせるんだろうな」
火属性魔法を発動して着火する。
燃料は枯れ木だ。生きた木を切ることはエルフの矜持的に許せないらしい。
ぱち、と火の粉が飛んだ。
「じゃ、火も着いたことだし。先に寝ていいぞ」
「……いや」
『いや』マジ?
「旅の始まりから思ってたんだけど……私を先に寝かせて、自分は殆ど寝ないじゃない」
「それは……ちょっとショートスリーパー気味だからで……」
「【覆い隠せ】【守護せよ】」
「何をしていらっしゃるんですかリーシャさん」
リーシャが杖を振って魔法を発動する。
魔物から発見されにくくなる結界と、外からの衝撃を無効化する結界が俺たちを包む。
「よし」
「いやよしじゃなくて」
「これで……少なくとも四時間は寝ずの番の必要がないわ」
にこ。
大変麗しい笑みでございますけれども……。
「寝なさい、ユキヤ」
「……ちょ、ちょま」
「あなたが寝るまで私、ずっと見てるからね」
ぐいぐいと袖を引っ張られてテントの中に放り込まれる。
……寝るしかなさそうだな。
「何かあったらすぐ呼んでくれよ……飛び起きるから……」
「はいはい……」
髪の毛にリーシャの手が触れた。
ゆっくりと優しく頭を撫でられる。
「……恥ずかしいんですけど」
「拒否権はないわ」
「さいですか……」
とは言ったものの。
リーシャに髪を梳かれていると、急激に眠くなってくる。
――意識が拡散し始め、眠りに落ちていく。
「……おやすみ」
そう言った彼女の声は、なんだかとても幸せそうだった。




