第十三話 陽だまりのような彼女
「先にも言ったように――かなりの長旅になるぞ。火山は大陸の真反対に近い場所だからな」
長老は、旅立とうとする俺たちに向け、門の前でそんなことを言った。
「リーシャ。必ず無事で帰ってくるんだぞ。お前の隣に居る奴は規格外も規格外だから、道中で危険を感じたらソイツを囮にして逃げろ。どうせ怪我もなく切り抜けるから」
「長老サマ? 俺のことそんな風に思っていたんですか?」
「ついでにお前も無事で帰ってこい」
「あっはい」
……でも正直、俺も同じ考えだ。
リーシャの瞳を正面から見据える。
「俺のステータスは魔王討伐を経て大幅に強化されてる。剣聖の”役割”も授かったから尚更高まっているはずだ。だからリーシャ、俺のことは盾代わりにでも思っておいてくれ」
「全面的な肯定はできないけど……でも、私の今のステータスじゃ荷物になるって事は分かってるつもり」
「……気負う必要はないよ」
俺は一呼吸おいてから言った。
「思いのままに動いて――そして、成長していってくれ。俺がずっと隣に居るから」
俺の言葉を受けて目をまん丸くしていたリーシャだが、すぐに可憐な笑みを浮かべた。
「……うん。傍に居て、ユキヤ」
「……私は何を見せられているんだ。さっさと出発しなさい」
「了解です。じゃ、長老。ちょっとリーシャを借りていきますね」
「怪我をさせたら殴る」
あ、エルフなのに魔法じゃなくて物理なんすね……。
「……迷った。どっちだっけ?」
「ちょっと左向いて……うん、その方向で合ってる」
「エルフは森の中で道を見失わないって本当だったんだな……」
「木々の一本一本を明確に区別しているんだもの。何千人の人が居ても友人の顔は見たら分かるでしょう?」
「ああ、そういう感覚なんだ……」
「というかユキヤ。あなたイリエスから走って里まで来たんでしょ? なんで逆に辿っているだけなのに迷ってるのよ」
「来たときは死に物狂いだったからさ……。正直里までたどり着けたのは幸運以外の何物でもない」
この上ない困惑に心を乱されながら走っていたから、方向感覚なんて殆どなくなっていた。それでも里にたどり着けたのは――なんと言うか、戦闘の時にたまに感じる”過程なしに結論に飛び込める”ゾーンに入っていたからというか……。
説明しづらいが、野生の勘みたいなものが働いたと思っている。
「……本当に、里にたどり着いてくれてよかった」
俺の一歩後ろを歩きながら、リーシャがぽつりと呟いた。
「あなたが居なくなったら――私は……」
一瞬だけ歩を止めて、彼女の隣に並ぶ。
左手でリーシャの手をそっと握った。
滑らかで柔らかく、綺麗な手。
「大丈夫――隣に居るから」
あの日、俺は彼女のことを守りたいと願った。
――その思いのせいで、彼女の心をひどく傷つけた。
だからこの旅はきっと、彼女を救う旅でもあるのだ。
剣の紋章を中心にして、刺すような痛みに襲われている右手から目を背け――左手の温もりに意識を注ぐ。
陽だまりのような、その温もりに。
第一章終了となります。
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